【花まるコラム】『心の筋肉』鈴木和明

【花まるコラム】『心の筋肉』鈴木和明

 2020年は、働き方や日々の生活様式に至るまで、これまでの「当たり前」を見直し、新たな「当たり前」を作るための、想像力や発想力が求められた一年でした。花まる学習会が設立当初から一貫して謳い続けている「思考力=実力を鍛える」というコンセプトの価値がさらに高まってきたと感じる一方で、その土台となる「基盤力」を鍛え続けていくことも大事なのだということを、今月は特に強く感じました。そもそも基盤力とは、言い換えると基礎学力(すべての学習を成立させるうえで必須となる、読み書き、計算、漢字)のことです。基盤力は、反復練習によって身につき、継続的に取り組むことで長く定着するものですから、一過性の取り組みでは定着にまで至りません。いわば、泥臭く、コツコツと、自らを律して向き合うといった「心の筋肉」が鍛えられる力でもあると言えます。

 さて、現場でのお悩みエピソードをご紹介します。2年生Kさんは、花まるの宿題を「どうしてもやりたくない」と言って、やれません。何度かワケを聞いたことがあるのですが、必ず口にするのは「面倒」という言葉です。3年生Mさんのお母さまからは、漢字勉強に苦労しているという相談をいただきました。2年生まではスラスラと漢字を覚えることができていたのに、3年生(8級)になると、字そのものも難しくなり、出題傾向も多岐に渡るため、途端に漢字勉強を負担に感じるようになります。Mさん本人に話を聞くと「覚えるのが面倒」と言っていました。3年生で漢字嫌いになるのは、決してめずらしい話ではありません。小学生コースでは、特別授業「算数大会」を実施しました。「ルートを見つけて!(5マス通って20を作ってゴール、のように条件に合うルートを計算しながら見つける)」という計算と迷路を合体させたゲームをおこなったときのことです。様子を観察していると、明らかに傾向が二分されました。淡々と計算をし続け、ルートが違えば別の道を探し着実に解き進めていく子と、ペースが落ち、やがて手が止まる子がいました。算数大会というお楽しみ要素が強い場で、「ゲーム」という渡し方をしても、計算を「面倒」と感じている子の意欲は減退してしまうのです。

 いまご紹介したエピソードに共通する根底の要因は「面倒という壁を気持ちで乗り越えることができない」ということだと考えます。そこで、基盤の積み上げがしっかりできているな、と感じる子の何名かに、どうして積み上げられるのか聞いてみました。すると、聞いた子全員が口を揃えて言っていたのは「どうしてって言われても…やるしかないですよね」でした。「やるしかない」、実にシンプルな言葉ですが、積み上げができている子の共通項が見えた気がします。
 もちろん、何か抱えている悩みや困難があって勉強が思うように捗らない場合は、解決策をともに考えていくようにしています。しかし、やらない理由が「面倒くさいから」ということであれば、「じゃあ次は頑張ろう」という心がけではなく「やるまで終わらない」という環境設計をしてしまうのが近道です。やらなかったことに対して責めたり、感情的になったりせず、「やれと言われたことはやりなさい。やるものだ」と伝えて終わりでいいのです。すでに花まるを卒業した教え子ですが、対応がとても上手なお母さまがいました。普段はいつも笑顔で、その子の話をよくしてくれるし、私の話にも熱心に耳を傾けてくださる優しい方でしたが、わが子が宿題をやらなかったときの態度は一貫していました。居残りが終わるのを待つ間、笑顔はなく能面、椅子に座って黙って待ちます。ようやく居残りを終えて連れて行くと、お母さまは「すみませんでした」と頭を下げられます。子どもが何か言い訳をしても、「やらなかったあなたが悪い」と一言返して終わりでした。何が良くて何が良くないのかという基準が、誰から見ても明確であることがお母さまの素晴らしいところです。

 楽しみながら学ぶ経験も大切にしつつ、やるべきことは粛々とやり続ける。頭の筋肉と心の筋肉の両方を鍛え続けられるような現場指導を、今後も心がけてまいります。 

花まる学習会 鈴木和明(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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