【花まるコラム】『変化をおこすために』佐藤暢昭

【花まるコラム】『変化をおこすために』佐藤暢昭

 「この問題、発表できる人?」
先生からの問いかけ。それに応じて「ハイ!」「ハイ!」とみんながどんどん手をあげていく。そんななか、手をあげることができない。でも…自分だけあげていないのは、それはそれで恥ずかしい。だから、自信なさげに手をあげる。まるで柳の木の枝のよう。そして「ここにはいないよ」と言わんばかりにオーラを消す(体はクラスで2番目に大きいけれど)。そして当たらなくてホッとする。でも…、ちょっぴり悔しい。

 みんなの前で手をあげて、発表すること。できる子にとっては何でもないことだけれど、できない子にとってはとてつもなく高いハードルとなりうるものです。そうなってしまう理由は10人いれば10通りあって、さまざまです。だからこそ、どこにその理由があるのかに意識を向けて探っていくことが大事だと考えています。

 花まるに通っていたMちゃんは、冒頭の少年時代の私とは違って、絶対手をあげるもんか、という強い意思のもと手をあげずに過ごしていました。決して授業中に一言も話さないわけではなく、会話は普通にできるし、何ならおしゃべりであると言ってもよいくらい。ピアノを習っていてコンクールで発表もしているので、人前で何かをするうえで大きく緊張しているわけでもない。でも、挙手をする場面では決まって口をつぐむ…。 

 Mちゃんが手をあげない理由をご家庭と話して考えていきつつ、授業のなかではいろいろと試していくことにしました。テーブルの編成を変えたり、出題のバリエーションを増やしたり…。Mちゃんに手をあげてもいいかな、と思ってもらえるように試行錯誤を重ねていきました。

 そのうちの一つに「個人戦ではなくチームで考えて答えを決め、代表が発表をする」という方法を試してみました。そのときMちゃんはほかの子たちが思い浮かばなかった答えを意見に出し、代表として解答を発表するという機会を得ました。これがきっかけとなり、Mちゃんはその後の個人戦においても、わかったときには挙手することができるようになりました。自分とまわりを比べることで遠慮したり自信がもてなかったりしていたMちゃんに、コミュニケーションをとり、安心感と自信を得たことで発表への勇気が生まれたのかもしれません。

 数年前に挙手について書いたときは「信じて待つ」というテーマでした。今回はそれとは違う切り口で書いてみました。もちろん、「挙手すること」=「よいこと」ということではありません。大切なことは、子どもたち一人ひとりを丁寧に見てかかわって、やってみようかな、やってよかったな、という気持ちにさせること。低学年に限らずどの学年においても、子どもたちが小さな成功体験をいくつも積み重ねて自信をつけていくようにしていきたいなと思っています。

花まる学習会 佐藤暢昭(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事