【花まるコラム】『ことばが体に染み入る瞬間』吉田優太

【花まるコラム】『ことばが体に染み入る瞬間』吉田優太

 先日、私の4歳の息子が突然「お菓子を買いたい!」と言ってきました。これからお昼寝をしようとしていたときだったので、何気なく「お昼寝終わったら行こうね~」と伝えました。すると「もうお昼寝したよ!?」という息子の言葉に私もびっくり。一瞬、思考が止まってしまいました。時刻は11時半。起きてから4時間ほどしか経過していません。困惑する私は同じことを確認してしまいました。「え?まだお昼寝してないよね?!お菓子はお昼寝が終わってからだよ?」。息子は、「お昼寝、したもん。」と言い張ります。少し時間が経っても、息子と私の意見は平行線のまま。
「お昼寝した!と言い張る息子」
VS
「まだしていないでしょ!?とツッコミを入れたい私」
の構図になりました。それから、(お昼寝)した!してない!した!してない!!!の繰り返し…。そのやり取り自体も私は楽しんでいたのですが、息子はお昼寝をしていない事実を頑なに認めようとはしませんでした。なんでわかってくれないの??というような、トゲトゲした雰囲気が息子の身体からあふれ始めていました。膠着状態が続き、お互い言い合うのも疲れたので、「ねえ、牛乳飲まない??」と小休止を私が提案。いやがるかなぁと思いきや「飲む!」と素直な反応に少し癒され、私も少し冷静に状況を分析し始めます。眠たくなってくると少しわがままを言い始めるのが息子の特徴の一つですが、様子がいつもと違いました。牛乳を飲んで小休止したあと、ふとある言葉を添えてもう一度息子に確認してみました。

私 :お昼寝したことはあるけど、「今日」もうお昼寝したの?
息子:…してない。
決着は一瞬でした。息子は「お昼寝なら昨日もうしたじゃん!だからすぐお菓子買いにいこうよ!なんでいかないの?」と解釈していたようです。「今日も」という自分のなかで当たり前のようにさえ感じる前提も、相手に伝わっていなければここまでの言い合いになるのだな。少しヒートアップし過ぎた自分を責めました。私の表情を察したのか、即座に私のもとに駆け寄る息子。ギューっとハグをして、仲直りしました。息子を抱きしめたままの状態でさらに言葉を続けます。

私 :ごめんね。「今日も」お昼寝するよ、って意味だったんだ。お菓子は買いに行こうね。何買うの?
息子:ラムネ。
私 :そっか。わかった、いいよ。楽しみだなぁ。
息子:パパも頑張ったね。パパの分も買ってあげるよ。
私 :ありがとう…。

いろいろな言葉をかけたくなりましたが、最後に一言だけ、息子に伝えました。もうすでに体がぽかぽかと温かい息子を抱きしめながら、「お昼寝は毎日するよ。元気に遊ぶためにも大事だからね。わかった?」と息子に言葉をかけました。もう半分眠りの世界に入っている息子は「うん」と寝言のように頷くのが精一杯でしたが、充分伝わっていると感じました。教室の授業でも似たようなことが起こります。「わが子」とのやりとりではないので言い合いにはなりませんが、ある3年生の男の子の事例を紹介します。

 数年前に私が担当していたAくん。机上を整理することに関して、頭ではわかってはいるのだけれど、どうもうまくいかない様子です。私は機会をうかがいながら観察を続けていました。スッと伝えられたのは、古典素読の「たんぽぽ」での一場面でした。たんぽぽを忘れてしまったAくんが私の腕のなかに入りこんできて、満面の笑みを見せました。発声が終わったあと、私の腕をギューっと抱きしめるAくん。この瞬間が先ほどの私の息子が「聴く姿勢」になった感覚と同じでした。同じ方向を向いたまま、「筆箱を片付けて、これを出してね」と次の「しれい」を伝えると、スッと聞き入れて実行できました。それ以降Aくんは、私の腕の間によく入ってくるようになりました。安心できる場所の一つになったのでしょう。相手に想いを馳せていないと、一方通行の意志伝達になってしまいます。教室では肌が触れていなくても、基本的に視線や表情、仕草によって相手が「聴く姿勢」になったかどうかを見極めています。この感覚をこれからもより研ぎ澄まして、「相手を思いやる心」をこれからも大切に育んでまいります。

花まる学習会  吉田優太(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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