【花まるコラム】『笑顔の輪』田中涼子

【花まるコラム】『笑顔の輪』田中涼子

 小学生クラスには特別授業があります。5月は今年度初の特別授業、算数大会でした。算数の要素を使ったゲームをいくつかおこないます。初めての大会にハラハラドキドキしている1年生。楽しさを知っている2、3年生たちはやる気満々で、1年生の手本になろうとしてくれていました。
「ほら、話を聞くときはこういう姿勢だよ」
「このプリントを使うけれど、ある?」
こんなふうに優しく声をかけて、フォローしてくれていたのです。特に2年生は、3月まで上級生に助けてもらう側にいました。それが、1年生を気にかけてあげられるほどに成長しているので、嬉しくてたまりません。花まる学習会では、こうして縦割りの学年での関係も大切にしています。上級生にしてもらって嬉しかったことを、下級生に返していく姿勢は、いつみても美しいなと感心します。コロナ禍以前は、このように縦割りの関係を築けるように、異学年混合の複数人でチームをつくり、協力しながらゲームに取り組んでいました。しかし、いまは感染予防対策もあって、複数人でチームをつくることをやめています。代わりに、なるべく異学年になるようにペアをつくり、協力してゲームを楽しめるようにしました。

 子どもたちにそのペアとなる相手を発表しました。「〇〇ちゃんがいい!」などと言う子もいるだろうと想定していたのですが、なんとそのような意見は一つもあがってきませんでした。むしろ、はにかみながら「よろしくね」と挨拶しているではありませんか。子どもたちのコミュニケーション力に、さらに感心したものです。ただやはり、なぜペアをつくるのかということが気になる子もいたようでした。素朴な疑問として質問されたのですが、あえて「なんでだと思う?」と子どもたちに尋ねてみました。すると、3年生の子が、とても素敵なことを話してくれました。
「笑顔は人にうつるんです。私が笑顔だと相手も笑顔になります。一緒に笑顔でがんばれば、もっと楽しくなって難しいゲームも乗り越えられます。だからペアをつくります」
なるほどー! おぉー! といった歓声とともに拍手の音で教室がいっぱいになりました。「チームワーク」「助け合い」といったシンプルな言葉でも、子どもたちはペアの意味を理解できたことでしょう。ですが、「笑顔」が加わることで、チームワークの意味がより深くなり、ペアである意味もより一層魅力的に感じますね。

 ゲーム中、ペアがいるからといって、簡単に人を頼らないところも、子どもたちの素晴らしいところです。まずは自分で考えてみる。あきらめず挑戦してもダメだなと感じたときにペアの子を頼る。そんな様子が各所で見られました。なかには真剣な目で相談しているペアもいて、正解したときには「イェイ!」と目を合わせて喜んでいました。この嬉しい気持ちを共有することで、さらに意欲が高まり、笑顔が増えていました。ただ、そういう子ばかりではありません。「難しそう」「自分にはできないと思う」と、後ろ向きな子もいます。それでもペアになると「二人でならできるかもしれない」「やってみてもいいかな」と、挑戦し続けていました。なぜなら、お互いに励まし合い、挑戦する勇気を与え合っているからです。一歩前に踏み出せば、考えることを楽しめる子どもたちです。そのような様子は、普段の教室でも見られます。子どもたちが互いに認め、励まし切磋琢磨する姿は、うらやましいほどに素敵です。集団で授業をする価値は、まさにこれだと感じています。

 「笑顔は人にうつる」と彼女から教わった子どもたちは、最後まで笑っていました。まるで花冠のように笑顔をつなぎ、一つの大きな輪を作り上げたような様子です。そして子どもたちは、相手を思いやる行動も自然とできています。子どもから子どもへ。笑顔と思いやりをつなぎながら日々成長しているのですね。

 「先生はいつも笑っているね」と似顔絵つきで手紙を書いてくれた子がいました。私が笑顔でいられるのは、子どもたちが笑顔をつないでくれたから。家族、教室、仲間…あらゆる場所で笑顔の輪をつないでいきたいと思っています。

花まる学習会  田中涼子(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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