■テストで“ととのう”子どもたち
みなさま、サウナはお好きですか? 私はたまに温泉施設へ出かけた際、ついでに入る程度です。しかしながら、蒸気に満ちた暑い部屋、ぐっとこらえて汗を出し、水風呂できゅっと身を締めて、外気浴で体が弛緩していくのを感じながら日々のちっぽけな悩みを露天風呂の空に霧散させるあの時間、いわゆる“ととのう”時間がとても好きです。…なぜこんな話を突然したかというと、偶然にも教室で子どもたちが“ととのっている”姿を目撃したからです。今回はその様子をレポートいたします。
■鉄は熱いうちに打て
先日、小学生クラスでHIT(ヒット/Hanamaru Intelligence Test)と花まる漢字テストを実施しました。3学期ともなると多くの子がテストに慣れ、記名や用紙の回収などの段取りがスムーズに進みます。その結果、テスト終了後、少しだけ時間に余裕が生まれました。私が、
「もうテストを解き終えたから、漢字辞典を出してもいいよ」
と伝えると、子どもたちは一斉にカバンからポケット漢字辞典(通称・ポケ漢)を取り出し、
「あー! これじゃん!」
「よかった~! 合ってた」
とわいわいガヤガヤ。誰もが経験したであろう、テスト後特有の、余韻の時間。自分にもこういうときあったなと感慨に浸っていると、あることに気づきました。
(あれ…? 普段漢字で書くように促しても頑なに拒否するYくんまで食い入るように漢字辞典を見ている…。)
(というか、もう心当たりは確認し終えただろうに、ほとんどの子がまだ漢字辞典を眺めている…。)
(これはもしや…ちょっと調べ物のつもりが、何の気なしに気になった部分を読みつないでいくうちにいつの間にかガッツリ読書になっちゃうアレだ!)
そう思った私は、担当するすべての教室で同じように、テスト終了後に漢字辞典を出してよい旨を伝え、子どもたちを観察してみました。するとどの教室でも同じような現象が起こるのです。これが家に帰ってからだとここまで没頭しない、それどころか、漢字辞典を開くことすらしない子もいるだろうと思うと、「鉄は熱いうちに打て」ということわざが真であることがわかります。
■後悔先に立たず、されど役に立つ
これはいままでも起きていた現象ではありますが、意識してみるとかなり尊い時間であることがわかります。子ども自身の「知りたい! わかりたい!」という知的欲求が最大限に高まり、自分の手で調べ確かめることで「これだ!」と納得する――まるでぐっとこらえて汗を出した分だけ、水風呂と外気浴で気持ち良くなるサウナのような、“ととのう”体験がそこにありました。主体的な学びのあり方として理想的です。
もちろん、テストのような負荷をかけずとも主体的な学びができるのが一番ではあります。しかし、ここで言うサウナは私にとってのお酒やたばこのような、「多量摂取は体に毒だが、たまにたしなむ程度ならアリ」なので、子どもにとっても「わからない/悩ましい」というストレスを恒常的に浴びるのはよろしくありませんが、その先の気持ち良さを疑似体験するためにテストの場を活用することは大いにアリだと考えられるわけです。今回、私は子どもたちの姿からそう学びました。テスト終了時の「できなかった/わからなかった」の後悔が先に立つことはありませんが、役には立つわけです。
花まる学習会 臼杵遥志(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。