【花まるコラム】『納豆とのたたかい』元吉遥子

【花まるコラム】『納豆とのたたかい』元吉遥子

 夏休みも明けて、2学期がスタートしました。久しぶりに会う子どもたちからは、キャンプへ行った、プールへ行った、おうちでゲームをたくさんしていたなど、いろいろな夏休みの過ごし方が聞こえてきました。

 さて、子どもたちが楽しんでいた夏休みに、私も1か月間サマースクールに行ってきました。これはあるコースに参加したときのお話です。1年生のIくん。彼にとってはじめてのサマースクールがスタートしました。行きのバスでテンションがあがり、楽しくなってはつい立ち上がり、そのたびにリーダーから声をかけられては座る、の繰り返し。そんなテンションMAXのIくんにも初めてのサマーで頑張りたいことがありました。それは「自分のことは、自分でやりたい」。初めて挑戦するサマースクールに胸を躍らせ、楽しむ気持ちのほかに、強い覚悟を感じました。

 宿に着くと早速、お昼ごはんです。おうちの人が作ってくれたお弁当をおいしそうに食べる子どもたち。Iくんのお弁当には、食べやすいように手でつかめるものが多く入っており、保護者の方の優しい気持ちが伝わってきました。一つひとつゆっくり噛み締めるIくんですが、唯一、箸を使う必要がある卵焼きが入っていました。割り箸を取り出しましたが、うまくつかめません。食べたいのに割り箸が言うことを聞いてくれないIくんは、どうすればいいか考えました。すると、手が触れないように、食べ終わったおにぎりのラップを使って卵焼きを挟むようにして食べ始めました。素手で食べるのかな、と思っていた私の予想とは裏腹に、手が汚れないように口へ運ぶ方法をIくんなりに考えたのでした。

 その後もIくんの挑戦は続きます。2日目の朝ごはんには、多くの子どもたちが苦戦する「納豆」が出ました。フィルムを開け、タレとカラシを取り出したあとはネバネバのフィルムをはがします。タレの小さな切り口をつかむのに手が滑って、なかなか開けることができません。子どもたちにとって「納豆」は、食べるまでにいくつものハードルを乗り越える必要があり、はじめて一人で挑戦する子のなかには、途中であきらめてしま子もいます。
 そんななか、箸を持ってぼーっとするIくんの姿が見えました。目線の先には「納豆」が。「食べていいんだよ」と声をかけると、「うーーん」と悩んでいる様子。「ぼく、一人でやってみたことないんだよね…」と声がもれました。「じゃあ、一緒にやろうか」と私も自分の「納豆」を持ち、Iくんの隣で開けました。タレとカラシを取り出すところまでは、私と一緒になんてことなくやってのけたIくん。しかし、ここからが長い道のりでした。ネバネバのフィルムをはがしたものの、手にネバネバがついて置く場所に困ったり、タレを開ける作業に苦戦したり。「カラシも入れる!」とのことで、カラシを開けるのにも一苦労。カラシをすべて入れ、そんなに入れて辛くないだろうか、という心配をよそに、ぐるぐるかき混ぜ、何粒かこぼしながらもやっと食べることができました。おいしそうに食べるIくんの顔と言ったら…。私もつい笑みがこぼれました。隣で声をかけていましたが、手を動かしたのはすべてIくん。自分で挑戦しいつも以上においしさく感じたようで、遠くを見つめながら幸せそうに頬張っていました。
  最終日。3日間挑戦尽くしだったIくんに「なにが一番想い出に残っている?」と聞くと、「納豆を自分で開けて食べたこと!」と言いました。彼にとって「納豆」への挑戦は、自分でできる自信につながったできごとでした。

 大好きな家族と離れて過ごす数日間。サマースクールでは子どもたちの数だけ物語が生まれます。一つの挑戦が数日間で成長に変わり、帰ったあとの生活はどこか大人びて見えます。次は冬の雪国スクール。この夏、踏み出せなかった子どもたちの挑戦もお待ちしております!   

花まる学習会  元吉遥子(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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