【花まるコラム】『変わるきっかけは小さなことから』根本沙織

【花まるコラム】『変わるきっかけは小さなことから』根本沙織

 花WEB授業に向けて準備を進めていただき、本当にありがとうございました。対面授業が再開する週は、久しぶりに会う子どもたちがどんな表情で教室に来るのかとわくわくした気持ちでいっぱいでした。子どもたちに会うと「花WEB楽しかった?」と話が尽きません。どのような環境でも自分で楽しみを見つけ出す子どもたちはさすが花まるっ子だなと感じました。

 5年生のKくん。「算数のノートを忘れてしまいました」と授業前に私のところへやって来ました。「宿題はやってあるの?」と聞くと、「やってはある」とのこと。実はKくん、宿題をやれていないことをなかなか自分から言い出せず、こちらから聞いて初めて「できていません」と言うことが時々あります。宿題で進めてきた内容の確認問題を解く時間、Kくんの手が止まりました。「先生…」と呼ばれそばに行くと、「実は宿題をやっていなかったから、この問題がわかりません」とのこと。いままでも宿題ができていなかったことはありましたが、学校で習っていた内容だったため何とか問題は解けていたけれど、その日の問題は学校でも習っておらずまったくわからなかったのだそう。Kくんと話をして、その日は宿題分と確認問題まですべて終わらせて帰ることにしました。
 授業が終わり、Kくんと二人で勉強の時間。「テキストとノートを出して!」と伝えると、カバンのなかから忘れたはずのノートを出しました。(忘れたはずじゃ…。きっとKくん、自分が忘れたと言ったことを忘れたな…!)宿題の内容を確認したあとは、基本的にKくんが自力で解き進めていきます。いままでと違うのは、Kくんが自ら私に質問できるようになっていたこと。手が止まっている様子を見て私から声をかけていたのですが、その日は「先生この問題がわかりません」と自分から質問してきたのです。一つずつ説明していくと、「ああ~!わかった!こうだね!」と確実に理解を深めながら解き進めていきました。「自分から質問できるということは、しっかり問題の意味を理解できている証拠だね!」と、一時間ほどかけてすべてを終わらせることができました。Kくんもすっきりした表情になったので「Kくん、授業前に算数のノートを忘れましたって言ってたけれど、カバンのなかにあったよね」と伝えると「ああ…、本当はノートは持ってきていたけれど、宿題をやってきていませんでした」と最初の言葉を訂正。二人で笑い合ったあと「Kくん、それでいいんだよ!宿題ができていないことよりも、ごまかされることのほうが先生は悲しいから、できていないときはそうやって伝えてね。残って全部やってみて、どうだった?」と伝えると、「う~ん、家より教室のほうが集中できるかな~」Kくん。「気持ちはわかるけれど、家でもしっかりやるんだよ!」とまた二人で笑い合いました。その日のKくんの笑顔は、いままで見たなかで一番「心から笑っている」ように見えたのは、気のせいではなかったはずです。

 保護者の方のお迎えが来るまで、Kくんと最近の学校のことなどさまざまな話をしました。Kくんを見送ったあと、「今日はどうしてあんなに自分から話してくれたんだろう」と考えました。きっと一番に「二人でたくさん話す時間を作れたこと」があったのだと思います。何気ない会話のなかで「本当のことを言っても大丈夫」とKくんが感じた瞬間があったのかもしれません。いままで本当の意味で「宿題ができていないこと」にKくん自身が向き合う時間を作れていなかったことに反省をしながら、人は人とのつながりのなかで変わっていくのだと、改めて学ぶことができました。きっとこのまま家に帰ってしまっていたら、Kくんが変わるチャンスを逃してしまっていたかもしれません。すぐに宿題が全部できるようにはならないかもしれませんが、きっとこれからKくんがごまかすことはなくなるでしょう。人となかなか会うことができないいまの時期だからこそ、会える時間を大切にしていきたい。子どもたちの隠された想いや気持ちに寄り添える存在になりたいと思わせてくれたKくんとの時間でした。

花まる学習会  根本沙織(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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