【花まるコラム】『表裏一体』小松原学

【花まるコラム】『表裏一体』小松原学

 「こんにちは!」
元気なこどもたちの挨拶が教室に響き渡ります。2月、年長クラスでは硬筆大会をおこないました。自分の名前と将来の夢を、一文字ずつ気持ちを込めて書き上げました。「先生」「ネイリスト」など、自分自身が一番ワクワクするものや魅力的に感じるものを夢として書く子どもたち。なかには、「ユーチューバー」と書いている子もいました。私が年長のときになりたかったものは「ヘリコプター」でした。子どもたちの将来の夢は、その時代を映す鏡のようなものなのだと感じました。

 にぎやかな教室から徐々に物音がなくなっていきます。硬筆大会独特の雰囲気が緊張感を増幅させるのでしょうか。子どもたちの集中力が高まっていきます。いつもよりも背筋を伸ばして、ゆっくりと丁寧に自分の夢を書く子どもたち。鉛筆の書く音が、「シャシャシャ」とあちこちから聞こえてきます。一文字書き終えるたびに「ふーっ」と息を吐き出すのは、気持ちを込めて取り組んでいる証拠ですね。Aくんは、この日に向けて専用のノートに自分の名前と将来の夢をたくさん練習してきました。

 ある日、Aくんが自宅で練習をしていたときのこと。
「この文字、上手に書けたね!」
とお母さんにほめられたAくん。ほめられたことがうれしかったのでしょう。その日からコツコツと練習を続けていたそうです。練習を重ねていくうちに、Aくんのなかで基準ができました。その基準が満たされるまで、書いては消し、書いては消しを何度も繰り返すのです。いい文字が書けないとかんしゃくを起こし、お母さんに八つ当たりすることも。それだけ真剣に取り組んでいたのでしょう。

 Aくんは自宅で練習した通りに自分の夢を書き始めました。たくさん練習をしたからなのか、環境が変わり集中力が増したからなのか、書き直すことはほとんどありません。書き終えると、ほっとしたのか安堵の表情を浮かべました。
「うまく書けた?」
と私が聞くと、
「ばっちり!」
と親指を立て、グーサインで答えてくれました。緊張から解放された瞬間です。きっと納得のいく文字が書けたのでしょう。

 実はその日のAくんの連絡帳には、お母さんからのコメントが書いてありました。

自宅でたくさん練習を頑張りました。うまく書けないとイライラして八つ当たりしてきます。私もそのことでイライラしちゃって、つい言い返してしまうんです。でも、あれだけ練習したのだから、きっと今日はいい文字が書けると思うので楽しみにしています!

「一生懸命に取り組むわが子への称賛」「子育てに対してのイライラ」「わが子が成長することへの期待」すべてお母さんの本音ですね。

 子どもたちは、さまざまな経験をしながら成長していきます。ただ、わが子のできることが増えるたびに、お母さんの悩みも同じように増えていくように感じます。それは、お母さんのなかでも基準が更新されていくからではないでしょうか。子どもの成長と親の悩みは表裏一体。母の愛情が尽きない限り、子育ての悩みも尽きないのかもしれません。いいこと、悪いこと、何でも構いません。いつでも私にシェアしてください。

花まる学習会 小松原学(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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