【花まるコラム】『わからないことは楽しいこと』本田瑠里子

【花まるコラム】『わからないことは楽しいこと』本田瑠里子

 外に出ると、金木犀の香りが漂う季節になりました。先日は、オンライン授業のための環境整備や準備など、ご家庭でのご協力をありがとうございました。去年より集中する時間が長くなった子や、体験授業のときより前向きに取り組んでいる子が多く、ご家庭でお子さまの成長を見ていただける機会になったのではないでしょうか。私自身、子どもたちのマスク越しではない満面の笑顔を見ることができ、心から嬉しく思いました。

 どの問題にも必死に食らいついていたAくん。「できた!」と、とても嬉しそうに画面上に解き終えた「なぞぺー」(思考力教材)を映していました。「ここがちょっと惜しい!」と言うと、「くっそ~!」と言いながらも弾けるような笑顔でまた鉛筆を手に取ります。頭を横に傾けながらも笑顔で何度も何度も解きなおします。以前のAくんは、わからない問題があると不安になって「もうやりたくない」と鉛筆を置いてしまう子でした。「Aくんならできるよ!先生がここまで一緒にやるからここから一人でやってみよう!」と声をかけても「わからないからやらない」「先生が答えを教えてくれないとできない」「どうせ僕にはできない」と問題を読む前に、自分から考えることを諦めてしまうこともありました。

 Aくんがこんなふうに変わった大きなきっかけはありません。ただ、一つ言えるのは、自分の力でできるととても気持ちいい、という経験を着実に積み重ねてきたということです。ある授業の「なぞぺー」の時間、多くの子が引っ掛かりやすいカメレオンの問題を解いていました。カメレオンが黒いタイルの上に乗ると体の色が変わるというルールで、ゴールにたどり着いたときにカメレオンが何色になっているかを考える問題です。問題のルールを理解し、冷静に1つずつ考えていけば解ける問題ですが、文章を正しく読み取る力や、条件に応じた変化をイメージする力、焦らず1つずつ情報を整理する力など、さまざまな力が求められます。最初、Aくんは「こんなのできないよ」と先生に助けを求めました。しかし、まだAくんは問題文も読んでいないことに気づき「まずは一緒に読んでみよう!」と声をかけ、Aくんがたどたどしくも読む姿を見守りました。読み終えたタイミングで「自分の力で読めてかっこいい!音読マスターだね!」と伝えると、Aくんは嬉しそうに照れながら「なんかできる気がしてきた…」と解き始めました。

 最終的には自分の力で解けたAくん。そのとき教室に響き渡った「できた!!!」の声とガッツポーズは、いまでも忘れられません。そんな経験を何度も何度も積んだAくんは、いまでは「わからなくたって楽しい!」と言葉にするほどになりました。これから年を重ねるにつれてわからないことはどんどん増えてくると思います。でも「わからないことは悪いことじゃない」「わからないなら考えればいいんだ」「わからないことも楽しめる」そんな力を身につけたAくんなら、どんな壁も乗り越えていくのだろうと思っています。

花まる学習会  本田瑠里子 (2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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