先日、おやこクラスで五感あそびの時間の前にこんな問いかけをしてみました。
「誰かがあそんでいたり何か作っていたりして『それいいなぁー』と思ったら、まねっこしてもいいと思う?」
おやこクラスの答えは、「まねっこ、大歓迎」。だって、自由なあそびの空間ですから。まねをするかどうかも、自分で選んでいいのです。そう伝えて始まったクラスの、Sさん親子のあそびがとても印象に残っています。
Sさん親子はその日、年少のKちゃんと、姉のRちゃん、そしてSさんの3人で参加されていました。素材は紙粘土。道具が出されると、小学生のRちゃんは「メロンパン」と金網で模様をつけ始めました。Kちゃんも「ねえねと同じにする」と、金網をギューッと粘土に押し付けます。すると、金網がめりこんで深い切れ込みが入り、それを見たSさんとKちゃんは「マンゴーだ!」と楽しそう。Rちゃんが絵の具を使い始めると、Sさんは「私も絵の具を使おう」と粘土に絵の具を練りこんで、パステルカラーを作り始めました。Kちゃんは「ねえね、どの色を使ったの?」と質問。Rちゃんの使っている黄色を粘土に混ぜていきました。それから「Kもママみたいにする」ともつぶやきました。最終的にそのときの作品がどうなったかというと…。Rちゃんは、緑と青のマーブル模様にスパンコールをワンポイントあしらったもの。Sさんは、パステルカラー4色をタブレット型にしたものを組み合わせた作品に。そしてKちゃんは、手のあとがそのまま残ったところもある複雑な造形に、黄と青の絵の具がからみ、さらにカラーペンで書き込みされ、スパンコールがひとつ添えられた作品です。パッと見た感じは、ふたりとまったく違うもの。ですが、確かにママやねえねの作品へのあこがれが詰まっています。まねっこしてできた、Kちゃんのオリジナル作品です。
クラスのあと、Rちゃんが私のところにやってきて「これを元にしたの」とある作品を指差しました。例として持ってきた、私の娘のものでした。帰宅してから娘にそれを伝えると「嬉しいー!」と大喜び。Rちゃんの作品の写真を見て「私も今度これをまねする」と言い、最後に「学校ではまねしちゃダメって言われるんだよね」と一言。ハッとしました。実は、冒頭の問いを投げかけたとき、Rちゃんが視線を泳がせたように見えたからです。あの一瞬、Rちゃんは「まねしてもいいのだろうか」と迷っていたのかもしれない。「まねっこ大歓迎」のルールが嬉しかったから、わざわざ最後に報告に来てくれたのかな、と思い至りました。
子どもたちが何かを「まねっこ」するとき、そこには相手へのリスペクトがあります。そして、真似された子はとても誇らしげです。この「まねっこ」は、互いを幸せにします。
こんなこともありました。小学生向けの創作クラスで、クリアファイルを使ったモビールを作る回。ある女性スタッフが、ひとつの作品に注目し「どうやってこの形にしたの?」傘を逆さにしたような作品を作った小学5年生の男の子に質問しました。彼はにまにまと得意げにアドバイス。スタッフは「そんな方法が…!」と悔しそうに、真剣に聞いていました。実は、彼女は美大生。正解のないあそびや創作の世界に、年齢や経験は関係ないのですね。「オリジナルでなければというプレッシャーから、自由に作れないと感じることがありました」とは彼女の言葉です。
改めて、「自由」とは何でしょう。手元の辞書によれば、「ほかから制限や束縛を受けず、自分の意志・感情に従って行動すること」だそう。おやこクラスにある自由は、もっとワクワクするものだと思っています。ここにあるのは「誰かの表現を感じながら、自分で選び、楽しむ自由」です。仲間の存在が、より自由の幅を広げてくれます。おやこ同士も、そんな関係でいられたら、幸せだと思うのです。
自分の名前にも、自由の「由」が入っています。「自由にのびのびと」の願いを込めて親からもらった字です。みなが自由でいられる空間を創れているか。人を幸せにする自由さを持ち続けられているか。自分に問いながら、素敵な仲間たちの待つクラスに立ちたいと思います。
花まる学習会 大塚由香(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。