【花まるコラム】『「はい!」から生まれた居場所』佐藤達也

【花まるコラム】『「はい!」から生まれた居場所』佐藤達也

  新年度、子どもたちは学年が一つ上がり、ドキドキしながら過ごしていることでしょう。新しい学校、新しいクラス、新しい習い事が始まる子もいるでしょう。ありがたいことに、その新しい習い事が花まる学習会だという子も多くいます。私はそんな初々しい子どもたちを見て、自分の少年時代を思い出していました。

 私が年長の初めに新しくサッカーを習い始めたときのことです。そのクラブではコーチが子どもの名前を呼んで出欠席をとっていました。初めての私は、まわりの子が名前を呼ばれているのを聞きながら、ドキドキして待っていました。

「さとうたつやくん!」
『はい!!!』

家で「返事はしっかりと!」と言われ続けていた私は、必要な倍以上の声量で返事をしてしまいました。その声を聞いてまわりの友達もコーチも大笑い。恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になったことを覚えています。ただコーチはそんな返事を気に入ったのか、出欠席をとるたびに同じやりとりが繰り返されました。最初こそ恥ずかしさがあったものの、変な対抗心もあり、負けじと大声で返事をしていました。この一連のやり取りを繰り返したおかげで、私はそのサッカークラブにすぐに馴染むことができました。「返事のたっちゃん」いまでも鮮明に覚えている、私のサッカークラブでの居場所を作ってくれたあだ名です。

 花まるにくる子どもたちも授業中にさまざまな行動をとっています。何かができたときの「いえい!」「できた!」を元気いっぱいに言う子。黙々と集中して自分のことをおこなう子。近づくと「見ないで!」と教材を隠す子。講師の服を引っ張り気を引こうとする子。控えめにできたことをアピールする子。緊張で俯く子。昨日抜けたばかりの歯をなんども見せる子。少し思い返すだけでもさまざまな様子が浮かんできます。

 新年度の授業で、教室の雰囲気やルールがわからないまま行動する子どもたち。ときには注意することもありますが、どうにかしてやってみようと思った結果の行動だと思えば可愛らしいものです。

 授業後に年中のAちゃんが「とっても楽しかった、次は何やるの?またね!」と声をかけてきました。それだけ言うと走ってお母さんのところに戻っていきました。翌週にAちゃんの保護者の方が「家に帰ってからずっとIキューブ(空間認識力を鍛える立体教具)を触っていて、教室でやったことを見せて大はしゃぎでした」と嬉しそうに話してくれました。授業中にAちゃんが「見て!こんなに高く積んだんだよ!」と目を輝かせていたことを思い出しました。

 このように明るいデビューの子もいれば、最初は「お母さんと離れたくない…」と教室に入ることを躊躇う子もいます。去年、年中のBくんは泣きながら教室に入り「いやだー」と叫ぶこともありました。そんなBくんと毎週顔を合わせ「今日は一緒に行く?」「そのぬいぐるみと一緒に入ってみる?」などとやり取りを繰り返すうちに、いつの間にか当たり前のように教室に入るようになりました。いまでは「おもしろい!」と楽しさを全面に出して授業を楽しんでいます。

 どんな子もこの教室に入れば「よし!やるぞ!」とそれぞれが自分なりにチャレンジできる。そんな安心して挑戦できる教室を作り上げていきたいと思います。サッカーのコーチがちょっぴり恥ずかしかった思い出を大切な居場所に変えてくれたように。十人十色な子どもたちそれぞれのサインを見逃さず、温かく包み込むように受け止めてまいります。

花まる学習会 佐藤達也(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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