サマースクール1日目の夜。消灯時間を過ぎ、子どもたちが寝静まった頃。私が各部屋を見回っていると、どこからか嗚咽交じりの泣き声が聞こえてきました。声のもとを探ってみると、日中は元気に川遊びをしていた1年生のHちゃんが、「ママに会いたいよぉ」と泣いています。私は彼女を階段まで連れて行き、横並びになって座りました。
「ママの声も聞こえない! 顔も見れない! おうちに帰りたいよぉ」
過去の野外体験でもさまざまな子を見てきましたが、ここまで心の葛藤を露わにしている様子を目の当たりにしたのは初めてでした。私はそのとき思いました。「きっとこの子だけじゃない。多くの子どもたちが家族と離れる寂しさと戦いながら当日を迎え、この葛藤を乗り越えてきたのだ。親元を離れて宿泊するということは、私が考えていた以上に子どもたちにとっては大冒険だったのだ。“寂しくて眠れなかったから次は行きたくない”といううしろ向きな気持ちで終わってほしくない」私はとにかくHちゃんの気持ちに寄り添おうと話を聴きました。
「サマースクールは初めて?」
「初めて。申し込むときは寂しくならないと思ってたけれど、いまは寂しい…」
「そっか。ママとパパはどんな人?」
「ママとパパはいつもニコニコなの!」
自慢のご両親なのでしょう。とても誇らしげに、嬉しそうに言います。しばらく沈黙が続いたあと、Hちゃんが切り出しました。
「ママとパパと、いつもやってることがあるの。寝る前に何回もギューってするの」
そう言ってHちゃんは私の膝の上に乗り、向かい合って座りました。私は精一杯愛を込めて彼女を抱きしめました。すると、Hちゃんは安心したのか、せきを切ったように家族のことを話し出しました。
「パパは鬼と友達でよく電話しているんだよ! おじいちゃんはサンタクロースと友達なの!」
それらの話を私が笑って聞いているうちに、Hちゃんはすっかり昼間の元気な様子に元通り。「寝られるかも」と言うので一緒に布団まで戻ると、すぐにスース―と寝息を立てはじめました。
サマースクールで葛藤を乗り越えるのは、子どもたちだけではありません。夏休み終了後、教室に通う1年生Sくんのお母さまからメールをいただきました。
「サマースクール前夜と当日の朝は、不安が強くなってやっぱり行かないと大泣きしていました。出発時のいまにも泣き出しそうな顔とは一変して、キラキラとした達成感に満ちた顔で帰ってきたのが忘れられません。ふたこと目には『来年はどのコースに行こうかな』と話すくらい、楽しめたようでした。親としても勇気を出して背中を押して本当によかったと感じました」
このメールを読み、私は送り出す側も相当な覚悟を持ってサマースクールに臨んでいるのだと知りました。学年によって段階は違えど、子も親もそれぞれの葛藤と向き合っていく野外体験。その一助となれていることに私は大きな喜びとやりがいを感じています。これからも、「大丈夫。一緒に乗り越えていこう」と子どもたちに寄り添える存在であり続けます。
花まる学習会 加藤美耶乃(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。