漢字学習や計算は、コツコツ取り組んで身につけるしかない“作業”の要素が大きい勉強です。子どもたちにとっては“おもしろみのない苦行”のように感じられることも多く、お子さまをやる気にさせるのも一苦労、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。投げ出したくなったり、雑にやったりする子もいたことでしょう。教室に持ってくるテキストやノートの頑張りのなかにもさまざまなドラマがあったことと思います。いつもたくさんのご協力をありがとうございます。
Aくんは“合わせて10になる数を言う”のが大得意な1年生です。「3」と投げかければ「7!」とすぐに返ってきます。しかし「6+7」のような計算になると途端に時間がかかってしまいます。10になる組み合わせがぱっとわかるなら簡単にできそうなのになぜ…? そう思われるかもしれません。しかし繰り上がりの足し算を分解してみると「6+4で10、7はさっき使った4と残りの3でできているから、答えは13」といった具合に計算するため、意外と複雑です。
彼がこの計算で遅くなってしまうのには明確な理由がありました。実はAくんは、1桁-1桁の引き算に苦手意識を持っていたのです。サボテン(計算教材/毎月単元が変わります)で引き算の単元に取り組んだときに、“足し算のように良いタイムが出ない”という理由で“引き算は苦手”と思い込んでしまったのでした。実際は本人が思うほどできていないわけではないのですが、“心の壁”の影響は計り知れません。そのときのサボテンは気持ちがついてこないぶん、どうにか終わらせた、といった状態で、ミスなくスピーディーにできるというところまではたどり着いていませんでした。
Aくんが繰り上がりの足し算で時間がかかっていたのは「7は4と3でできているから」という部分の引き算がゆっくりだったからなのです。ついにはこの月のサボテンも進んでやりたがらなくなってしまいました。
ここでお母さまとAくんの引き算強化特訓が幕を開けます。ただ、“勉強”としてやらせようとすると何かを察するのか、Aくんはやりたがりません。そこでお母さまがどうしたかというと…“おやつレベルアップ作戦”を決行したのです! ルールは簡単です。
①1日のなかでふとしたときに「8-3は?」などとお母さまからクイズを出す
②勝負は全部で10問
③8問以上正解したら普段のおやつをちょっとだけ豪華にする
この3つだけ。
10問勝負になったことでゲーム感が増し、さらにはちょっとした景品がついたことで俄然やる気になったAくん。毎日引き算を練習するうちに、だんだんとミスなくスピーディーに答えられるようになりました。指も使わなくなり、自信がついて「引き算なんて簡単だもーん!」と言うまでに。何でもご褒美をあげればよいというわけではありませんが、特訓がAくんにとって“楽しいもの”になったことが大きな成長につながりました。
“いまから勉強しますよ”という雰囲気が出ると逃げていく…子どもあるあるではないでしょうか。そういうところに働くセンサーの感度の高さには本当に驚かされます。なので、そういうときはあえて“ゲームにしてしまう”というのがポイントです。子どもたちは“勝負”や“対決”になると途端に燃えます。ゲームにするのが難しければ、「○○選手権」という名前をつけてみるだけ、「よーいドン!」と声をかけるだけでもゲーム感を醸し出すことができます。おもしろそうだと思わせられたら、もう半分勝ったようなものです。子どもたちが自主的に動き始めますから。
「やり方をちょっと変えたら楽しそうにやれています」というのはよく耳にする言葉です。子どもたちにとって“やりたいもの”にしてしまうことができれば、保護者の方々の心労もきっと減ることでしょう。ぜひ、何かをやらせたいときにはできそうな範囲で“ゲームにできないかな”と考えてみてください。思いつかないときにはぜひご相談くださいね。一緒に良い方法を考えていきましょう!
花まる学習会 中山千明(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。