時の経つのは早いもので…ふと気がつけば、2022年も大詰めを迎えています。学期末、そして年末——こうした「節目」に今後の方向性を見据え、進路を変更することになる子どもたちも多いもの。中学受験を見据えてこの年末で花まるを巣立っていくことになる3年生Aちゃんもその一人。決して器用なタイプではありませんが、内に秘めた負けん気の強さは人一倍。レインボータイム(思考力問題)の難関問題に挑戦する際には、繰り返し消しゴムでこするあまりに紙面が破れてしまうこともしばしば。それでも飽くなき闘志を燃やし続けて挑戦を止めないハートの強さが持ち味——そんなAちゃんのお母さまとはこれまでのべ何時間にもわたって面談を行ってきましたが、そのたびに「この子に中学受験をさせるべきか」が必ず話題に上っていました。先に中学受験を目指して進学塾通いを開始した天才肌で奔放なお兄ちゃんとはまた違い、コツコツ堅実に頑張るタイプのAちゃん。彼女にとっての中学受験という選択肢の是非はもちろん、「大好きな花まるに小学校卒業まで通わせてあげたい」…そんなありがたい思いも、今後の進路を決めあぐねていた遠因の一つでした。
12月最初の授業のお迎え時。神妙な面持ちで、重い口を開かれたお母さま。「受験、挑戦することに決めました…」——あ、とうとうその時が来たか――心のどこかで覚悟は決めていたつもりでしたが、それがいざ現実のものとなると、意思とは関係なく胸がざわつきます。しかしあらためての面談にて想いをお聞きしたところ、まだ本当の意味での踏ん切りはついていない様子。受験のためには、花まるから近隣の進学塾へ移らなくてはならない。大好きな花まるを退会してまで受験をする意味が本当にあるのだろうか――Aちゃんとしてもお兄ちゃんの背中を追っての「受験への憧れ」は少なからず持っている。しかし花まるへの愛着も同時に根強く心にある――「何かを諦めなくてはならない」状況であることだけは確かでした。が…そこで私がお伝えしたのは「受験対策に踏み切ること、それはお父さまお母さまの決断であることに意味がある」ということ。この結論を紡ぎ出したのが「Aちゃんのことを世界中の誰よりも愛している」ご両親であること――それがもうすべてであると。不確定な未来を前にして「この選択が正解なのかどうか」なんて誰にもわからない。しかし「その子に誰よりも熱い想いを抱く存在が」「心から幸せを願い」「考えに考え抜いてたどり着いた結論」であるならば…それが間違いでなんかあるはずがない。どう転んだって必ずそれは「世界中の誰も敵うはずがない」熱い想いとともに、その子の将来をあと押しするものになる。世の中の基準云々なんて関係ない、「その子にとってだけは」真実であるに決まっているのだから。ただただご自分の、わが子への想いだけを信じてください…教室長としてではなく、子を持つ一人の「親」として、そう伝えさせていただきました。しばしの沈黙のあと、静かに、しかし力強く呟かれたお母さま——これで…心が決まりました。ありがとうございました――それは同時に、Aちゃんとのお別れが確定となった瞬間でもありました。我々としても辛いところです。が、何と言っても「誰よりAちゃんのことを愛している」ご両親が導き出された結論…そこにはもう私なんかが意見を挟むことなどできようはずもないのです。すべてを受け入れ、笑顔で見送るのみ。そして続けてお母さまが、涙ながらに伝えてくださった言葉…胸に染み入りました。
「いまあらためて…花まるに出逢えてよかったと心から思っています。ありがとうございました」
花まるとかかわっていただける時間。それは長い人生の、ほんの「一瞬」なのかもしれません。が、その「一瞬」に、出逢えたこと、かかわっていただけたことへの感謝の意を、ありったけの想いを注いで示していきたい。そんな「一瞬一瞬」が、まわりまわって子どもたちの人生に幾許かの追い風を吹かせるものになるのならば…まさしく幸甚の至りです。いままさに、暮れゆかんとする2022年。聖夜に紡ぐ子どもたちの夢が、どうか今年もこの上なく――素敵なものでありますように。
花まる学習会 樋口雅人(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。