【花まるコラム】『「楽しかったよ!」の笑顔を届ける』伊藤潤

【花まるコラム】『「楽しかったよ!」の笑顔を届ける』伊藤潤

 新年度になり、気づけばもう桜が葉桜に変わっています。塾の先生となり19回目の春であり、父親としては2回目の春です。
 親になり娘と接するなかでつくづく思うのは、「子は宝」だということです。もちろん上手くいかないときもあります。教育の知識はあっても、実践は難しい。試行錯誤の日々です。けれども、自分を必要としてくれ、屈託ない笑顔をくれるわが子は、いてくれるだけで世界を明るく照らしてくれる存在です。

 そんな第一子の保育園通いが4月から始まりました。わが家は共働きで、塾の先生は出勤が少し遅いため、朝の育児は私の仕事です。
 元気に動き回る娘と格闘しながら、ごはんにまみれた服とおむつを着替えさせます。そして、「おむつとエプロンはある。着替えは昨日雨で外に行かず替えなかったからなくていいんだよね」と忘れ物がないか妻に確認したら、娘を抱っこして保育園へ。園までは歩くと15分ほどかかります。少し遠いのですが、でもそれは二人っきりの楽しい時間です。いままで出会った先輩ママさんを真似て、目に映るものを言葉にして語りかけながら歩いています。
 つらいのは、娘を預ける瞬間です。ぐずらないようにと保育士の先生に笑顔で手早く渡します。しかし、その瞬間に娘の顔はくしゃりと歪み、大きく口をあけ息をいっぱい吸いこんだあと、全身で大泣きします。先生は慣れたもので「大丈夫、大丈夫!」と明るく預かってくれるので、「よろしくお願いします」と私も笑顔を取り繕って、その場をさっと離れます。でも、娘が気になる。「大丈夫かな」と部屋を覗いて様子を見たい。けれど、「親離れできないから逆効果だよな」「ずっと見ていたら保育士さんの負担になるしな」と自分が預かってきた経験から入り口から離れるべきと判断します。けれど、廊下で壁に近づき子どもの声が聞こえないか、泣いていないか、大丈夫かとつい耳をそばだててしまいます。
 娘は早生まれのため、まだ少ししか言葉しか話せません。何度も熱心にパパという言葉を教えているのですが、なぜか私のことも妻のことも「ママ」と呼びます。それに比べて、1歳から保育園に通い始めた同級生には立派に喋る子もいて、その預ける様子はより大変そうです。「ママ!ママ!ママ!」と叫ぶように連呼して真っ赤な顔で暴れまわる子もいます。「正直、親のほうが辛いですよね…」と、その子のお母さんと園でおむつを補充しながら話をします。
 週1回は私がお迎え担当です。「朝は泣いていたけれど、いまは元気に過ごしているだろうか…」と憂いながら娘を引き取りにいきます。教室につき、そっと顔を覗かせる。「娘はどこだろう、どんな様子だろうか…」と恐る恐る探すと、先生の近くで泣いている。私に気づいた先生が「パパ来たよ!」と泣いていた娘を抱き上げ、私に預けてくれます。それで娘がぱっと笑顔になるわけではありません。泣き止むのですが、色のない顔をして無言です。そんな子を抱きながら、「子どもは子どもの世界で頑張っているんだな」と強く思うのです。「いまは泣いていますけれど、ごはんをしっかり食べたり、おもちゃでも遊んだりと、Aちゃん頑張っていましたよ」と保育士さんから言葉をもらうと、安心感が心いっぱいに広がるのです。
 子どもを預ける親の気持ち、それを初めて経験しています。そして、「とにかく娘がその時間を笑顔で過ごしていてほしい」とただそれだけを願うのです。

 だからこそ、花まる教室をそうしたい。教室が終わってみなさんが子どもに会ったとき、「ママ、パパ、楽しかった!」という笑顔を届けるようにしたい。もし言葉にしない子でも「きっと楽しかったんだな」という様子にして帰してあげたい。
 20年近く教壇に立ち、花まるだけでなく、中学受験指導で御三家など難関校の入試結果にも向き合い続けてきました。それらの経験から花まる子育てカレッジで講演会もしています。
 こうしたすべての経験を、1回1回の「楽しかったよ!」のにこやかな顔と子どもの成長のために注ぎたい。
 親の代わりに宝を育てる。その大きな責任と喜びに改めて襟を正して、子どもの心が輝く教室を作ります。

花まる学習会 伊藤潤(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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