年中クラスで変わった挨拶が飛び交うようになりました。教室に入ってくる際には「こんにちは」ではなく「ただいま」と言い、授業が終わると「さようなら」ではなく「いってきます」と言うのです。教室は、子どもたちにとって“わが家”のような居場所になっているのかもしれません。そんなときには私も「おかえり」「いってらっしゃい」と声をかけるようにしています。
そんな年中クラスのAくん。絵の具を使う思考実験では、必ずと言っていいほど手に絵の具を塗り、気づいたら両手が真っ赤に染まっていることも。満面の笑みで手のひらを見せてくれます。はさみを使う授業では「ラーメンを作る」と折り紙を細長く切るなど、発想が豊かで、Aくんが作る作品にはいつも驚かされます。そんなAくんがある日の授業後に、また教室にやってきました。私に何かを伝え忘れたのか、窓越しに精一杯声を出し、何かを伝えようとしているようでした。窓を開けると、「来週も花まるあるよね?」と言うので私が「もちろんあるよ!」と伝えると、いつもの満面の笑みでで「やったー!」と大喜び。「花まるはいっぱいほめてくれるから、一番好き!」と続けました。そんなに花まるを楽しみにしてくれているのかと、私も満面の笑みになりました。
Aくんとのやり取りを経て、私が小学生の頃に通っていたサッカー教室のコーチを思い出しました。当時の私は運動神経がずば抜けてよいわけではありませんでしたが、マラソン大会で1位を取るなど、体力にだけは自信がありました。一方で、うまくリフティングができなかったり、うまくパスを渡せなかったりと、 技術面ではうまいとは言えませんでした。それでもコーチは毎回「本当にたくさんグラウンドを走りまわってくれているよな。すごいよ」や、「今日は攻守を切り替えるタイミングがとてもよかったよ」などと、できない部分を叱るのではなく、輝いていた部分をほめてくれました。そのため、私にとってサッカーの習い事は「安心して気持ちを伝えられる場所」になり、家のような温かさを感じていました。
花まるの教室が子どもたちにとって安心できる居場所であってほしい。だからこそ、授業では必ず一人ひとりの「輝いている点」を伝えています。それは計算の速さや字の達筆さなどの「能力」の部分に限らず、「笑顔がはじけている」や「たくさん手を動かしている」など、能力では測れない子どもたちの輝いている部分もです。これからも子どもたちが「ただいま」「いってきます」と毎週笑顔で教室にこられるように。
花まる学習会 奥西裕希(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。