【花まるコラム】『その輝きはあなたのもの』新井征太郎

【花まるコラム】『その輝きはあなたのもの』新井征太郎

 花まる学習会の小学生コースで月に1回開催している「大会」。テーマに沿った数々の学習ゲームに、クラスの仲間と協力、相談して取り組みます。協調性を養うとともに、自分の知識や学習の幅を広げる特別授業です。
 7月には国語大会を開催しました。漢字や言葉を使ったゲームのなかに、「輝いている漢字はどれだ!?」というゲームがありました。複数の漢字のなかから、ほかの漢字と異なる漢字を一つだけ探すゲームです。たとえば、「右、加、苦、左、器…」なら「『口』が入っていないから、答えは左!」。「小、賞、周、笑、章…」なら「読み方が『ショウ』でないから、答えは周!」といった具合です。
 そのなかに、以下の問題がありました。
「『土・下・上・千・三・川・工・人』のなかから、一つ異なる漢字を探そう」
 みなさん、答えはおわかりでしょうか。正解は「人」です。理由は、「ほかの漢字は画数が3画だが、人だけ2画だから」です。この問題を4~6年生クラスで出題した際、大半の子が正解しました。そのときは何事もなく、次の問題へ進みました。

 しかし、大会終了後、4年生のUちゃんが、私にその問題用紙を見せながら聞きました。
「先生、この答え違いますか? 自信があったのだけれど…」
そこに書いてあった答えは「『工』だけ、2年生の漢字」。
 Uちゃん曰く、「工は2年生で習う漢字で、ほかの漢字は1年生で習う漢字」。それを聞いた子どもたちが、にわかに騒ぎ出します。
「それ覚えているの、すごくない!?」
「言われてみれば、そんな気がする!」
「ちょっと調べてみようよ!」
と、口々に話し出したので、『小学漢字 1026字の正しい書き方』で調べてみました。すると、確かに…。「工」は2年生で習いますが、ほかの漢字は1年生で習う漢字です。私や講師も含めて、その場にいた一同が、驚きと称賛の声をあげました。
「すごい! よく覚えていたね!」
「これだけで、MVPものだよ!」
私は、Uちゃんに伝えました。
「模範解答には画数しか書いていない。問題を作った人も、多分気づいていないよ。それを見つけたことは、本当にすごい!」

 Uちゃんは、いままで漢字学習を頑張ってきました。花漢(花まる漢字テスト)に特待合格・合格し続け、この6月の花漢では5年生1学期程度の6A級に合格しました。毎回花漢に向けて一生懸命勉強し、花漢の日は「先生、今日は花漢だよね!」と、気合十分の表情で教室にやってきます。一方で、一つひとつの行動がまわりの子より遅れてしまい、学校などで苦労することもあるようです。その彼女が輝けるものが、漢字学習です。私は常々「Uには漢字という得意で熱中できるもの、一生懸命やれるものがある。それは素晴らしいことだよ」と伝えてきました。今回もそれを伝えて、彼女が別解を見つけたことを称えました。

 弊社代表の高濱も、「まわりの大人や子どもたちの『配慮やお世辞ではない、心からの称賛』が、子どもの心に残り自信になる」と、講演会で話しています。子どもたちや私に称賛されたUちゃんの表情。驚きと照れくささが混じり、私たちの言葉を消化するには少し時間がかかりそうでした。ただ、このできごとや言葉はきっとUちゃんの心に刻まれ、彼女の自信につながると信じています。

 ところで、このゲームの名前は、特徴の異なる漢字を「違う漢字」「仲間外れ」という言葉でなく、「輝いている漢字」としています。他者との違いを認め合い、他者との違いをその子の輝きだととらえる作問者の思いがあらわれていて、私も非常に共感しました。
 そのゲームで、まさに輝きを見せたUちゃん。私たちにできることは、Uちゃんや子どもたちの輝きを見つけて言葉にして伝えることだと、改めて感じました。子どもたちがそれぞれの輝きを見せて自信をつける場になるよう子どもたちと接し、「あなたのその輝きが、素晴らしいものだよ」と伝えていきます。

花まる学習会  新井征太郎(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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