【花まるコラム】『「自分らしさ」とは』髙橋駿輔

【花まるコラム】『「自分らしさ」とは』髙橋駿輔

 私は中学生の頃から音楽を聴くことがとても好きで、いまでもロックバンドの曲を中心に、通勤中の車内や、ランニング中などによく聞いています。そのなかでも「SUPER BEAVER」というバンドの心に突き刺さるような歌詞にハマっており、最近は彼らの曲を永遠にリピートしながら聞いています。これまでにたくさんの曲を世に送り出している彼らですが、なんと一度も歌詞に英語表記を使ったことはなく、すべて日本語で表記されています。だからこそ聞いている私たちにも言葉がストレートに突き刺さってきますし、「みんなに歌っている」のではなく「聞いているあなたに向けて歌っている」、そんなメッセージが伝わってくるのだと思います。どの曲も魅力的なのですが、そのなかでも私の心に残っているのが『らしさ』という曲です。

“ 自分らしさってなんだ ”

 歌い始めでいきなり私たちに「自分らしさ」を問いかけてくるこの曲。これを初めて聴いたとき、「私の自分らしさってなんだろう」と考えてみました。
 私にはこれといった特技はありません。しいて言えば、野球が少しできるくらいでしょうか。好奇心旺盛な性格なので、いろいろなものに手を出したためにすべて中途半端に終わってしまう。そんなことが日常茶飯事です。では、その「好奇心旺盛なところ」が「自分らしさ」なのでは?と問われても、「好奇心旺盛な人はまわりにたくさんいるから個性とは言い難い」と思ってしまうのです。

 近年、日本のグローバル化が進むと同時に、「多様性」が大事だと謳われるようになりました。「その人らしさ」を認めていこう、「その人のありのまま」を尊重しようという風潮です。そのため、就職活動や入試の面接では、「個性」も重視される傾向が強くなってきています。つまりは「自分らしさ」を出せるかどうかが勝負の世界となっているのです。
 しかし、自分の「個性」を探してみても、私のように見つけられない人もなかにはいると思います。

  一方で、子どもたちに目を向けてみるとどうでしょう。「自分らしさ」を探しながら生きている子は、おそらくいないのではないでしょうか。好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。自分の感じたように素直に言葉にして、自分の好きなように表現しています。感覚で動いていることがほとんどでしょう。そのような子どもたちの様子を見たときに、これこそが「個性そのもの」なのではないかと感じました。その人が感じたこと、言動などの一つひとつの個性が合わさって「その人らしさ」が作り上げられると思います。 

 ある教室で、こんなことがありました。絵の具を使う年中クラスの授業で、色鮮やかにするために「絵の具をたっぷりと使おう!」と子どもたちに伝えました。しかし、それを聞いたTくんは「こっちのほうがいい!」と言って、目一杯水で薄めた絵の具で絵を描いていました。「色は濃い方がいい」という固定概念にとらわれず、「色の薄いほうが好き」と感じ、それをそのままTくんらしく表現した。まさに「自分らしさ」を体現した瞬間でもありました。  

“ だから僕は僕らしく、そして君は君らしくって、初めから探すような物ではないんだと思うんだ ”

『らしさ』のサビの歌詞です。
「自分らしさはもともと培われた感性そのものであって探すものではない。だからそのままの自分でいていいんだよ」

 この歌詞にはそんなメッセージが秘められていると思います。子どもたちが将来、「自分らしさとは何か」で道に迷わないよう、その子のありのままを認め、その子の感性を尊重していこう。その思いを胸に、これからも子どもたちと向き合い続けていこうと思います。

花まる学習会 髙橋駿輔(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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