【花まるコラム】『「挑戦+承認」は成長のきっかけ』田中理紗子

【花まるコラム】『「挑戦+承認」は成長のきっかけ』田中理紗子

 低学年クラスに通う子どもたちに人気の教材の1つ「たこマン」。1枚の絵を見て、その後どうなるかを子どもたちが自由に考えます。正解があるものではなく「自分だったらどう考えるか」という発想力を養うものであり、さらにはまわりの人を楽しませる「オチ」を考えられるようになることがこの教材の趣旨です。

 ある3年生の男の子もたこマンはお気に入りの時間。友達のアイデアを聞いて笑ったり驚いたりと表情をころころ変えながら楽しんでいます。一人ひとりの発表に拍手を送る姿からも、友達の発表を聞くことが好きなことも伝わってきます。ですが、彼が発表することはとても稀なことでした。時折「発表してみる?」と声をかけても困ったように首を傾げたあと、静かに横に振ることがほとんどでした。3年生の秋頃まで、彼にとってたこマンは聞いて楽しむ時間でした。

 そんな彼が変わったのは、1年に1回行われる思考実験大会の日でした。思考実験大会とは、答えのないゲームに自由な発想力で勝負をしていく特別授業です。毎年新しいゲームになるので、その一瞬のひらめきが大切になります。序盤におこなったゲームで彼も発表に挑戦しました。「すっごくおもしろい!」とそのアイデアが教室のみんなに大ウケ。私も「そんなにおもしろいアイデアを持っているなんてすごいね!」と伝えました。あちこちから予想だにしない反応が返ってきたことにびっくりした様子でしたが、とても嬉しそうに笑った表情が印象的でした。その出来事があったからか、その日は何回も手を挙げ、発表への参加が多く見受けられました。授業後にも友達やチームの先生から「おもしろかったよ!すごいね!」と話しかけられ、満面の笑みで帰っていきました。その日を境に、彼にとってたこマンが聞いて楽しむだけでなく、発表も楽しむ時間に変わりました。以前の困った顔が嘘のようにいまでは毎週、自分から手を挙げて発表しています。お母さまが「本当ですか!?」と驚くほどの変化です。

 なぜこんなにも大きく変わることができたのでしょうか。私はいままでの積み重ねに自信が加わったからだと感じています。毎週の授業で楽しく友達のアイデアを聞くことで、イメージの幅や話し方が自然と蓄積されていたのでしょう。ただ、思いついたアイデアをみんなが聞いたときにどう感じるのかは発表してみないとわかりません。自分のアイデアに自信がないまま発表した思考実験大会で得られた反応は、「自分のアイデアで笑ってもらえた」という自信につながったのでしょう。そしていまもなお、授業で発表した際にはまわりの友達や大人から認める言葉をかけ続けられることでより自信を育んでいます。

 成長するためには、挑戦するだけではいけないと考えています。挑戦しできた瞬間に認められること。つまり挑戦と承認がセットになって初めて成長へとつながるのだと思います。これらが一度でつながることもあれば、何度も繰り返していつのまにか成長していることも。適切なタイミングを逃さず、適切な言葉で承認をし続ける、それを今後も続けていきます。

花まる学習会 田中理紗子(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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