「だから、やるべきことをやらないなら怒っていいけど、S(長男)が理解できないことに対して、いちいち怒らないでよ!Sが勉強を嫌いになったら、どうしてくれるの!」
久しぶりに感情を抑えきれず、食卓机をバンバン叩きながら、激高して夫に怒鳴る私。
「はぁ?何もやらないなら、口を出すな!」
夫も私に怒鳴り返します。
「あぁ、そうですか、わかりました。じゃあ受験すると決まったからには、口も手も出すから!だいたいね、多くの子どもにとって、割合や速さの抽象概念は、生活での経験値に結びつかないと難しいの!つまずきやすい範囲なの!私だって小6のとき、“この量を①としたときのほにゃらら”って問題に、“①ってなんなの、もとにした場合ってなんなの、本当はちゃんと物量あるでしょ!きちんと書いて”って毎回キレていたよ!」
止まらない夫婦喧嘩に、そっと向こうの部屋に消える子どもたち。それを目の端に捕らえながらも、ますます口汚くお互いを罵る夫婦…。
たまっていた鬱憤を一通りぶつけ合い、夫婦がボソボソ話す段になって、子どもたちが
「終わったー?」
と見計らったように、現れました。その屈託のなさに苦笑しつつ、
「ごめん、ごめん、ちょっとフィーバーしちゃった」
と小声で謝ります。すると長男が
「もうホントだよ〜」
とさらっとした一言を返してきました。内心、あれ、いつの間にかだいぶ心も成長したなぁと驚きます。3年生までは本当に幼くて、夫婦喧嘩をするたびに傷ついた顔をしていたのに。この感じだと6年生の頃にはギリギリ大人度(自他を客観視できる度合い)も高まるか…。夫への怒りをまだくすぶらせつつ、意識の片隅で考えます。
子どもの成長は本当に早いもので、10歳以降はあっという間に精神的に成長し、親の手元から飛び立ってしまいます。中学受験はそんなわが子と同じ方向を向いてどっぷり関われる最後の機会、と言う方もいます。まさにわが家も同じです。思春期の空へぽわぽわ飛び立とうとしているわが子の目線を進路に誘導して、もうちょっとだけ一緒に遊んでよ、とワンチームのスクラムを組む感じかな、とイメージしてみます。
そして、冒頭の夫婦喧嘩に戻れば…言うまでもなく、長男の受験は、“子はかすがい”とばかりに、いままで目をそむけがちだった夫婦の関係性の、試金石となる予感に満ち満ちています。次の日、さっそく夫が『二月の勝者-絶対合格の教室-』(ビックコミックス)を大人買いしてきました。“狂気にガクブル…”と笑い飛ばしながらも、ある程度の結果を求めるならば、今までの夫婦のあり方とは明らかにモードチェンジが必要な気持ちにさせられます。未知の領域に多少おじける気持ちを認めつつ、“受からなくても死ぬわけでなし”と夫婦と家族の第二章をちょっぴり楽しみに思う気持ちを奮い立たせる私。
さてさて、夫婦関係や親子関係は今後どうなるのか。家族がワンチームになれたとして、七転び八起き、たどり着く先にどんな「幸せな受験」があるのか。そもそもわが家にとっての「幸せな受験」とは…!?花まるの教室長といえども、理想通りには到底いかない、とある家庭のリアル中受奮闘記をお届けしていく予定です。
花まる学習会 川波朋子
【登場人物紹介】
私:東京都内の私立中高一貫女子高出身。花まる学習会 教室長で、過去には花まるグループ進学塾部門 スクールFCで小~中学生の英語も教えていた。子どもが産まれてからは事務方まわりの仕事を多くしている。怒りの沸点は、夫より高いと思いたい。
夫:地方の公立高校出身。もともとは中受に批判的だったが、「学校の授業がつまらない」という長男の言葉を真に受け、じゃあ中学受験に挑戦するかと決意した子煩悩な父。在宅勤務が多くなり、以前にも増して子育てに全力投球中。
長男 S:4歳から花まる学習会に通い始めた、マイペースな小学5年生。サマースクール・雪国スクールはともに皆勤、生粋の花まるっ子。現在は中学受験を決意し、スクールFCで学ぶ日々。自宅から歩いて通える中高一貫男子校がいったんの第一志望校。理由はいつも通っている習い事の近くだから。
次男 Y:保育園児。外面がよい甘えん坊。夫婦喧嘩の次の日、机をバンバン叩きながら兄に喧嘩を売っていたのは、きっとご愛敬…。