花まる学習会の夏は、サマースクールという大イベントがあります。大自然のなか、森や川で遊んだりしますが、バカンスやツアーではありません。活動の準備をするときは、必要なものを自分でバックから取り出し、身支度を整えます。その日初めて出会った仲間と、自然のなかでその場にあるものを使って工夫して楽しみ、また魚をさばくことで命の大切さを学びます。ときには喧嘩もしますが、どうしたら一緒に過ごす時間をよりよくすることができるかを、自分たちで考えます。そのような挑戦の日々を通して、子どもたちは成長していきます。
サマースクールで出会った1年生のRちゃん。森で木や葉っぱを使い、大きな基地を作る「秘密基地作りの国」というコースに参加しました。みんなでレクリエーションをしながらバスで現地まで向かうのですが、人見知りなRちゃんは「ママー!」とずっと泣いていました。宿に着き着替えたあと、どんな基地を作りたいか作戦会議をしているときも、1人だけその輪に入ろうとしませんでした。そんなRちゃんにも、作りたいものがありました。それはブランコです。どうしてもブランコが作りたくてこのコースにしたことを話していました。
宿を出発して、いざ森へ。基地を作り始めたころ、2年生のMちゃんが基地の横にブランコを作り始めました。Rちゃんに「Mがブランコを作っているよ。一緒に作ろうって言う?」と聞くと、少し恥ずかしそうに、下を向いたまま「うん」と頷きました。彼女と手をつなぎ、Mちゃんのところへ。私は「M、Rが言いたいことがあるって!聞いてあげて!」と言い、私は手を離しました。Rちゃんがなんと言うか、ちゃんと自分の口で言うことができるのか、見守ることにしました。そうすると「一緒につくってもいい…?」と、自分から言い出すことができました。「いいよー!」と言われ、下を向いていたRちゃんも上を向き、ブランコを作り始めました。2人で協力して無事完成!それだけでなく、たくさんの子どもたちからも人気を集める、ターザンロープまで完成させました。Rちゃんはみんなが楽しんでいる様子を、とても嬉しそうに見ていました。あのとき彼女が踏み出した一歩は、自分を乗り越える大きな成長につながりました。
また、年長のTくんは、1人でのお泊まりが初めてでした。それを不安に思っていたのはTくんのお母さん。Tくんは「僕、行けるよー!」とケロッとした様子でしたが、お母さんは「行けるのかな…。大丈夫なのかな…」そうおっしゃっていました。当日、「泣くのかな?いやがるかな?」と心配していましたが、元気いっぱいに手を振って出発していきました。次の日お迎えに行くと、満面の笑みで帰ってきたTくん。サマースクールが楽しかったようで、あった出来事を1から10まですべて話していました。そんな様子を見て、お母さんは「私がTが離れるのを心配していた部分がほとんどでした。しかし、どんどんやりたいことをやらせていいのだと、本人をもっと信じていいのだと思えるようになりました」とおっしゃっていました。
Rちゃんの成長もTくんのお母さんの気づきも、サマースクールに踏み出した一歩がきっかけでした。今年の夏、行くことができなかった子、行ったけれど途中で帰ることになり、悔しい想いをした子もいると思います。来年また、参加した子どもたち全員が楽しかったと思えるサマースクールを、そして子どもたちの成長、またご家族が気づきを得られる機会を提供できますように。
花まる学習会 井田七星(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。