新年度がはじまって3か月が経ちました。最近は保護者のみなさまと面談をおこなっています。20分間という短い時間ではありますが、お子さまの花まるでの頑張りをお伝えし今後のことを話す時間は、私にとって大変幸せなものです。何よりも保護者のみなさまのわが子を大切に想う気持ちが伝わってくる、素敵な時間です。
先日、2年生Aちゃんのお母さまと面談をしました。そこで話したのは、Aちゃんの成長について。こうした機会に改めて振り返ることで、大きな成長に気づきます。
私がAちゃんと出会ったのは、Aちゃんが年長の頃。年長クラスの授業では、音読のページで「いい声大賞」、運筆のページで「リズム大賞」など、さまざまな場面で頑張っている子を「大賞」に選んで、子どもたちのやる気を引き出しています。Aちゃんは大賞をもらうために頑張っていました。向上心あふれる姿が素敵だなと思いつつ、同時に、あまりにも結果ばかりを気にするAちゃんにざわざわしたものも感じていました。Aちゃんはいつも「大人に褒められるための行動」をとっていたのです。
私もかつては褒められることに何よりの重心を置いている子どもでした。「そりゃ、誰しも褒められたいでしょう」と思う方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、褒められて自信をつけるのも悪いことではありません。ただ、いつまでも褒めてくれる人が近くにいるわけではない。まわりからの評価“だけ”で自分の価値を決めてしまうと、褒められなくなったときが辛いのです。自分のことを一番近くで認められるのは、ほかの誰でもなく自分自身だということに気づくのに、私はずいぶん遠回りをしてしまいました。そんな自分の姿と重なり、Aちゃんにはそうなってほしくないと感じていました。
さて、小学生のクラスで月に1回開催する特別授業「大会」では、特に輝いていた子を「MVP」として表彰します。Aちゃんは、低学年クラスになってはじめての大会でMVPに選ばれませんでした。彼女が頑張っていたのは間違いないのですが、MVPを意識するあまり楽しんでいるようには見えなかったからです。何としてもMVPを取りたくて頑張っていたAちゃんはその日、家に帰ってから寝るまでずっと泣いていたそうです。「賞を取りたい!」と強く願い、そのために努力するのも、取れなくて泣くほど悔しがる負けず嫌いさも、彼女を成長させる力になります。一方で、「賞を取ること」でしか自分の価値を認められないと、「勝てない」時期が訪れたときに自分の価値を見失ってしまうでしょう。
その出来事があってから、私はAちゃんに「自分の気持ち」と向き合うための話を何度もしました。
「MVPは結果的についてくるもの。大切なのは、あなたがいま、どう思っているかだよ。楽しかったな、おもしろかったなと思うものが1つでもあったら、賞なんて関係ないよね」
いまでも大会のたびに必ずこの話をしています。最初はそれでもMVPを取れないと悲しそうな顔をしていたAちゃんでしたが、何度も何度も伝えていくうちに、変わっていきました。いまでは、大会でMVPが発表されて自分でない人が選ばれても、笑顔で
「やったね!おめでとう!」
と言って拍手を送るまでに。そして毎回、
「ああ、今日も楽しかった!」
と言って笑顔で帰っていくのです。
年度末の雪国スクールで、私は偶然Aちゃんと同じコースになりました。雪国スクールにもMVPの表彰があるのですが、行きのバス内で全体のリーダーが、MVPに選ばれるために大切なことを聞くと、Aちゃんは迷いなくこう答えました。
「MVPになるために頑張るんじゃないんだよ」
Aちゃんのなかで「自分が楽しむこと」に価値を置くのが当たり前になっていることを嬉しく思いました。そして、自分の心に目を向けられるようになったAちゃんは、もう大丈夫。きっと自分の力で幸せをつかんでいけることでしょう。
子どもたちが自ら幸せをつかみ取れる大人になれるように、これからも子どもたちの「心」を大切にして向き合っていきます。
花まる学習会 鈴木弥生(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。