低学年クラスで行う、パターンメーカー。フラッシュカード形式で3秒だけ提示した図形を目に焼きつけて、手元の4枚のカードを並べ替えます。「ぐるぐる~」と腕を回す子どもたちから、わくわく感が伝わってきます。「ひらけ~ゴマ!」そのかけ声とともに、パッとお手本を見ると、ぐっと集中する子どもたち。カードをどのように組み合わせると同じ形が再現できるかをイメージして考え、手を動かしながら平面図形の認識能力を鍛える教材です。
その日、みんながパターンメーカーの準備を始めたところで、2年生のHくんがカバンに顔を押しつけて泣き出してしまいました。突然の涙に、てっきりパターンメーカーを忘れてしまったのだと、私も講師も思いこんでしまいました。
「泣かなくても大丈夫、次の授業で持っておいで」
そう声をかけたものの、一向に泣き止みません。その後、泣き声を押し殺してHくんが言ったのは、
「隣の子が…。忘れてないもん」
という一言。隣に座っていたAくんのパターンメーカーを見ると、Hくんの名前が書いてありました。Hくんが出したものをAくんが自分のものと勘違いして使ってしまったのか、そもそもAくんが間違えてHくんのカバンからパターンメーカーを取り出してしまったのか、きっかけはわかりません。手元のパターンメーカーが自分のものではないと気がついた瞬間、Aくんの顔に広がったのは、戸惑いの色。悪気がないことは、はっきりしていました。
「AくんがHくんのものを使ったことで、Hくんは悲しくなって泣いてしまったんだ。Hくんも、Aくんも、誰も悪くない。それはよくわかっているよ。でも、自分がしたことでお友達が泣いていたら、その子の気持ちを考えられる人でいてほしいと先生は思うよ。どうする? 」
そこまで伝えたとき、Aくんははっとしたのでしょう。目にはみるみる涙がたまっていき、Hくんと一緒に泣き出してしまいました。
「二人は花まるの仲間だよね。ここで二人で泣くか、解決して一緒に授業の続きをやるか。二人のタイミングでいいから、言いたいことを言って、すっきりさせよう」
と伝えました。
それでも二人の涙は止まりません。しかし、意を決してAくんが震えるかすかな声で、
「ごめんね」
と言いました。それはちゃんとHくんに届いて、Hくんも声を震わせながら
「いいよ」
と言えました。
授業に戻ったら、泣いていたことを忘れさせるほど、いつも通りの二人になっていました。
子ども同士の小さなトラブルは、自分たちで乗り越えていくからこそ、力になります。他者とかかわり、自分とは違う気持ちや考えをもっているのだと知る。そして、ぶつかったりつまずいたりしながらも関係を築いていく。そのような経験を通して、たくましさが磨かれるのだと思います。
花まるの教室や、サマースクールなど野外体験の現場で起こる、小さなもめごと。「もめごとはこやし」という言葉を大切に、まわりの大人は見守っています。なかには、今回のように子ども同士でうまく伝えられないことや、言葉にならないことも。まだ仲直りするための言葉を知らないこともあるでしょう。一つひとつのもめごとを乗り越える経験が、成長につながるよう、あと押しできる場でありたいと思っています。
花まる学習会 金井彩(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。