【花まるコラム】『92点より価値のある点数』林飛翔

【花まるコラム】『92点より価値のある点数』林飛翔

  花まる漢字テスト(花漢)を通して成長した一人の子を紹介します。2年生から入会したYちゃんは、初めての花漢で90点を取りました。初めはお母さまとの面談で「本人は漢字練習がつまらないと言っている」と聞いていました。そんなYちゃんがいきなり花漢で90点を取ったのです。そして10月に開催した2回目の花漢では、特待合格(96点以上)を取りました。70点以上で合格すると貰える賞状よりも一回りも二回りも大きい賞状をもらったYちゃん。その頃からYちゃんの意識が変わり始めました。花漢があるから漢字練習をするのではなく、花漢が次にいつあるかも知らない状態から自ら進んで勉強を始めるようになったのです。花漢には受検級があり、合格すると次の級に進めるようになっているのですが、特待合格すると飛び級の権利がもらえ、次回に受検する級を一つでも二つでも上げることができます。Yちゃんは、覚悟を決めて飛び級をすることに。花漢までの4か月間は、お正月の三が日以外、誰に言われるでもなく自分で決めて、毎朝6時半に起きてコツコツ勉強をしていたそうです。 
 そしていよいよ2月、花漢の日がやってきました。当日の朝も、何度も何度も練習して準備万端で挑んだ花漢。私も気合を入れて採点しました。一つ上の学年へ飛び級をした結果、92点で合格。飛び級をしてこの点数はなかなか取れるものではありません。結果を返したときに一瞬戸惑った表情をしたあと、少し恥ずかしそうに微笑んだYちゃん。私はそのときYちゃんの表情が曇ったことを察知しました。翌日に電話をしてみると、Yちゃんは家に帰ってきてから号泣したと聞きました。そうです、92点が悔しくてしかたなかったのです。100点を狙い、特待合格を目指していたYちゃんにとって、92点は納得がいきません。Yちゃんの漢字熱は、醒めるどころかヒートアップしました。

  3年生になったYちゃんの漢字練習は、休むことなく続きました。私が声をかけないとノートこそ恥ずかしがって見せてくれないのですが、頑張っていることは連絡帳を通してお母さまから聞いています。前回の悔し涙から4か月、リベンジのときが来ました。当日の連絡帳にはお母さまから「受検範囲以外の漢字練習ばかりをしていて、結局今回の範囲の練習は一週間前になって始めていました」とありました。大丈夫かな?これで前回よりも悪かったら…と私の中で不安がよぎりました。
 テストが終わり、いつもと変わらない様子で帰っていくYちゃん。今回も気合いを入れて全員分のテストを採点します。そしていよいよYちゃんの採点。

 結果は90点。―――しかし不思議と私は、大丈夫だなと感じました。

 花漢を返却する日。Yちゃんは点数を見ても特に悔しがる様子はなく、「そうだよね」といった感じでけろっとしていました。私が「悔しくない?」と聞くと「悔しくない」と答えました。これはYちゃんにとって、特待合格よりもよい結果だなと感じました。Yちゃんが92点で号泣したときと90点でも爽やかな今回とでは何が違うのか。それは、特待合格を取るための勉強か、点数のためではなく漢字が楽しいから勉強しているかどうかの差です。いつの間にかYちゃんの目的は、高い点数を取って合格することではなく、楽しいから・自分がやりたいから漢字練習をする、に変わっていったのでしょう。

  今週から始まった面談では、お母さまが「Yが『テスト中にわからなくて考えているときに先生と目が合った。そうしたら、先生がニコッと微笑んでくれたから、また頑張ろうと思ってそのあともすらすら解けた』と話していました」とお伝えくださいました。
 ひとりでも学ぶ原動力が「楽しさ」に変わるように。これからも教室での認める声かけ、認めるまなざし。教室で一人ひとりの子どもを包み込んでまいります。

花まる学習会 林飛翔(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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