【花まるコラム】『さらけだし』舘岡聡美

【花まるコラム】『さらけだし』舘岡聡美

 「生きているなかで、こんなことが起るなんて」「この先、どういうふうになるのだろう」という言葉を何度も耳にしました。こうしたときに、一番の力になるな、と感じたのが「遊びの力」です。クスっと笑えることがどんなに安心につながるか、腹を抱えて笑うことがどんなに不安をかっさらい、幸せで包みこんでくれるのかを実感しました。 

 オンラインで「つながった」授業のなかでも、たくさんの笑いをもらいました。高学年授業で、本人以外に、次々と登場する幼い子どもたち(本人ではなく、弟妹が興味本位で次々に登場していました)。宝物として見せてくれたのが、まさかの犬の毛玉、「オレンジ色で、人を笑顔にさせるもの」というお題のもとに、持ってきて見せてくれたのは、人参に顔を書いて作った即席人形など。こうして、それまで抱えていた不安はすっかり消え、「早く子どもたちに会いたい!」という気持ちへと変わっていきました。こうして、会えるようになったいま、「やっと会えた!」という喜びに包まれています。

 休校期間中に作品を、メールで送ってくださったご家庭に御礼のお電話をし、ご自宅での様子などを聞いていたとき、「先生、私、いいお母さんでいることを、これを機に辞めました!」と教えてくれた方がいました。お話をよく伺うと、「大変なときには、素直に伝えるようにした」とのこと。朝から晩までごはんを作り続けているようで、とにかく大変で自分の存在意義さえ見つけられず悶々と日々を過ごしていたそうです。子どもたちに正直に話すと、翌日から、昼食は子どもたちが担当してくれるようになったそうです。さらに、「高濱先生は、講演のなかで『母が女神だ』と言うでしょ。でもこう長い間一緒にいると女神ではいられないの!この子も大人になったら、お嫁さんをもらうでしょ。女の本性も教えておかないと、お嫁さんが可哀そうだと思って」と。「確かに!」と大爆笑しました。

 このお母さんの言葉は結構核心をついているのではないか、と思っています。「さらけだし」をすることは子育ての1つのポイントです。

 人生は真面目だけでは行き詰ってしまうもの。「~しなきゃ」という言葉は自分を追い詰めます。かつて、私もこの言葉にとらわれている時期がありました。しかし、「あなたらしくいていいんだよ。もっと気楽に!」と先輩に言われ、焦っていた自分に気がつきました。
 そうした呪縛にとらわれているときこそ、遊び心をもって、自分の気持ちのコントロールを図ることが必要なのでは、といまは思えます。ありのままの自分をさらけ出すと「実は私も…」と知らぬ間に人に勇気を与えることができたり、SOSメッセージを受け取ってくれた人が手を差し伸べてくれたりすることがよくあります。そして、その存在にホッと安心をして、また前に進むことができた経験はみなさまもあるのではないでしょうか。

 「子ども1人が育つには、1つの村が必要だ」というアフリカの古い諺があります。子どもは自分の体を分けて生まれてきた存在でありながら、思ってもみないことを考えていたり、行動をしたり、とまったくの別人格なのです。だからこそ、悩んだり、迷ったりしますよね。
 いろいろな人と出会い、いろいろな言葉と出会い、見守ってもらい、褒めてもらい、叱ってもらい、愛してもらい、人が育っていくのです。きっと、保護者のみなさまご自身も「小さい頃、あの人が助けてくれたな」「あの言葉に救われたんだよな」と思い返す存在があるのではないでしょうか。

 花まる学習会が「お母さん」としてではなく、保護者の方「ご自身」としてさらけ出してもらえる存在でありたい、と願っています。

花まる学習会 舘岡聡美(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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