「先生さようなら!」と元気に挨拶して帰っていく5年生になりたてのKくんを見て、私は随分と立派になったなとしみじみと思っていました。4年生で自分が担当していた頃は、よく授業中に「お腹が痛いです」「頭が痛いです」と弱気になっている姿がありました。Kくんはもともと勉強に対する意欲はしっかりとあったのですが、なかなか課題に取り組めず、それを気にして教室にも行き渋ってしまうことがありました。
意欲はあるものの少し諦めることが早いKくんに対して、「いきなり100%わからなくても大丈夫」ということを伝え続けました。わからないところがあっても、問題を解いていくなかで段々と理解を深めていけば良い、と。しかし、そう言われてすぐに安心できるものでもないので、頭だけではなく経験を通して理解できるように努めていきました。
私が授業を担当していたKくんは、課題をしようとしても授業で学んだことを家ではまったく思い出せず、家族と喧嘩してしまうこともあったようです。そこで、授業後に課題の一部を終わらせてから帰るということを徹底しました。授業中に理解しきれなかった内容を、課題を取り組むなかで理解を深めれば、家に帰ったあとでも取り組めます。そもそも、授業中もよくボーっとしていたKくん。授業後に課題を解こうとすると、やり方を思い出せず手が止まってしまっていました。それを見た私がもう一度説明を行うことで、Kくんは問題を解けるようになっていきました。
はじめは「えー!課題は家でやりますよー!」と渋々教室で課題に取り組んでいたKくんでしたが、わからないことをその日のうちに解決できることに達成感を得られるようになり、段々と自信がついていきました。授業でも意欲的に学べるようになると、いままではあまり自分からできなかった質問もできるようになっていきました。分数の授業の日には、仮分数と帯分数に初めは苦戦していたKくんでしたが、それでもすぐには諦めず、私にも質問をして、最後は課題のページに取り組んで「スッキリしました!」と晴れ晴れとした表情で帰っていきました。「いきなり100%わからなくても大丈夫」が、確実にKくんに伝わっていることが見てわかりました。
この、一度で無理に理解せず、実際に手を動かしながら理解していく過程は、当たり前ながらなかなかできないことがあります。というのも、一度わからない、できないと思うことで、理解しようとする気持ちが一気になくなってしまうことがあるからです。一度の説明で理解してスラスラ解いていくまわりと比べて、自分を卑下してしまうこともあります。教える側も、子どもが理解していないと焦ってしまいがちですが、説明と実践のバランスをとっていけば着実に理解できるようになっていきます。
わからないとき、できないときというのは何よりも本人が一番辛く、自分で自分にもう限界だと言い聞かせてしまうことがあります。そんなときに、理屈でいろいろと説明されてもなかなか理解しようという気になれません。だからこそ、手を動かします。手を動かしていくことで脳も活発に働きます。すると、段々とやり方自体は体が覚えていき、やり方を覚えることで説明を深く理解できるようになっていきます。これからも、いきなり100%わからなくても大丈夫、と私は子どもに伝え続けます。自分に限界を決める言葉は言わず、まずは何でもやってみること。それだけで、必ず勉強はできるようになっていきます。
スクールFC/西郡学習道場 金澤巧真(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。