年中クラスの授業では月に一度、外遊びに出かけます。感受性が豊かないまの時期だからこそ、五感をめいっぱい使って、遊び尽くします。
目指す先は教室から子どもたちの足で5、6分のところにある公園です。そこに15分ほどかけて向かいます。公園に行って遊ぶことだけが目的ではありません。道中にも様々な発見があるのです。3歩行けば立ち止まり、虫を観察したり、石を拾ったり、小川をじっと見たり…。何かを拾えば、「ママにあげるんだ~!」と「たからものいれ(…と名付けたビニール袋)」に入れ、小さな手でぎゅっと握りしめて、また歩みを進めます。
子どもたちの目に映る世界は小さいものです。視野が狭く、何かがあっても気づかずに通り過ぎてしまうこともしばしば。そんなとき、一言声をかけることで、パアーっと世界が広がります。
「ねえ!見てごらん、空!おもしろい形をした雲があるね~」ふと空を見ると、陰影のない小さな雲片が多数の群れをなすように、空に広がっていました。子どもたちは「うわ~!すご~い!」と空を見上げます。「あれはねえ…」と雲の名前を伝えようとしたそのとき、Aちゃんが嬉しそうに「あれはね!しつじ(ひつじと言いたかったのでしょう)ぐもっていうんだよ。しつじさんみたいでしょ。フワフワして。じいじがそういってた!」と教えてくれました。周りの子どもたちも、雲の形状と羊のイメージがぴったり頭の中で重なったのでしょう。空を見上げるたびに「ひつじぐも!」と嬉しそうに声をあげていました。その後も空を見上げては「ひつじ!」「くじら!」「うさぎ!」と口々に言葉にしていました。この時期の子どもたちにとって、新たな言葉との出合いはうれしいものなのだと実感しました。
別の外遊びの日。直前まで雨が降っていましたが、子どもたちの想いが届いたかのように、出発時には晴れ間が広がってきました。雨上がりの公園に着くと、子どもたちは「虫を捕まえたい!」と走り出しました。てんとう虫、蝶々、蟻…。次々と見つけては、私のところに戻ってきます。子どもたちは何かを見つける天才です。目の前に広がる世界に没頭しています。そんな中、Bちゃんが「ダンゴ虫見つけたいなあ…」とポツリと言いました。あたりを探しますが、ダンゴ虫は見つけられません。そのとき、タタタッとCくんがBちゃんのもとに歩み寄ってきて、ニコニコしながら言いました。「ダンゴ虫はね!じめじめしたところにいるんだよ!」きっと最近、家族に「じめじめ」という言葉を教えてもらったのでしょう。嬉しそうにBちゃんに教えていました。しかし、Bちゃんはきょとんとした表情を浮かべ、「じめじめ?」と首を傾げていました。おそらく人生で初めて出合った言葉だったのでしょう。Cくんも得意げに言ったものの、じめじめという言葉をそれ以上説明することはできませんでした。すると、CくんがBちゃんの手を取り、やさしく“じめじめしていそうな”場所に連れて行ったのです。石の下、日陰、葉っぱの下…。雨上がりだったこともあり、確かにじめじめはしていたのですが、そこには残念ながらダンゴ虫はいませんでした。2人そろって「いないね…」と肩を落としています。それでも、教室への帰り道、Bちゃんはずっと「じめじめしたところにダンゴ虫はいるんだって!ね、Cくん!」と何度も話していました。
見て、感じて、言葉にする。新しい言葉との出合いは子どもたちの人生に彩りを加えます。
「うちの子、なかなか本を読まなくて…」「語彙が少なくて…」よくいただく質問ですが、きっとヒントは何の変哲もない日常の中に隠れているのでしょう。本来子どもたちは新しいものを覚えると、それを誇らしげに使ってみたり、やってみたりしたくなる生き物です。幼児期はとにかく、見て、感じて、言葉にしていく。シャワーのように言葉を浴びせることで、徐々に自分のものになっていきます。私たち大人のかかわり方、そして同世代の友だちとの関わりで、子どもの世界はぐんぐん広がっていくと確信しています。
今月も、教室で子どもたちとのコミュニケーションをめいっぱい楽しもうと思います。
花まる学習会 小林駿平 (花まるだより2022年3月号掲載)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。