春。多くの人々が、新たな環境の中に飛び込んだばかりの4月。
誰しも、好スタートを切りたいと思うのは当然のことです。ただそこで、思うようなスタートが切れないこともあるかもしれません。それでも、大丈夫です。もしそうだったとしても、焦らずにいることができれば必ず追い風は吹いてきます。
物語は、初めはうまくいかないほうがおもしろくなるのです。…そうは言っても、目の前のことについて考えて、悩んでしまうのが人間です。そのこと自体は、決して悪いことではありません。むしろ、目の前のことから目を逸らさずに考えて、悩めるのは素敵な才覚です。しかし、悩みの渦中にいるときには、そんな自分が素敵だと思える余裕はないかもしれません。
そんなときに、私が大切だと感じていることがあります。それは、「帰る場所」があることです。
花まるアルゴクラブに入会したTくんは、授業の間、緊張していて、まわりで「できた!」の声が次々と上がっていくことにやや焦りを感じながら取り組んでいました。
授業後、私は、頑張っていたTくんの様子をお母さんに話しました。諦めずに粘り強くやれるのは彼の強みであることを伝えたところ、お母さんはあっけらかんと「まだ最初なんで全然わからなかったみたいなんですけど、大丈夫ですよね!」。私は、わかるようになるまでサポートする旨を伝えました。すると、続けてお母さんは、Tくんのことをチラッと見ながら「90分授業を受けられただけですごいなって思います」。横でもじもじしながら微笑むTくん。
彼には、全力で肯定してくれるお母さんがいる。とても心強く感じました。きっとTくんは、お母さんの言葉で、その日の自分を肯定することができたはずです。
一番近い距離にいる人に対して、あれもこれも、もっとできるようになってほしいという気持ちが先行してしまうのは、人の性です。しかし、どんな人も―特に子どもたちは―、まずはいまの自分のそのままの姿を受け止めてもらえれば、心は安らぎます。悩んで、疲れて、なんとか帰り着いたその場所に、「今日もよく帰ってきたね」と優しく抱き寄せてくれる人がいれば、「いろいろあったけれど今日はいい日だった」と思えて、日々はより幸せなものになっていきます。
「それはわかっているけど、そんな余裕がないなあ…」そう思われた方もいるかもしれません。そんなときは、花まる学習会にお任せください。花まるは「行く場所」ですが、「帰る場所」でもあります。
花まるは、子どもたちのありのままを認めている場所です。子どもたちの考えたことを「そんなふうに考えたんだね!」と聞いてあげられる場所です。子どもたちが、元気になれる場所です。
私が以前担当していた教室でのこと。1年生の男の子Sくんは、いつもは来たときに「おはようございまーす!」などとおどけて挨拶するようなひょうきん者です。しかし、その日は少し疲れていたのか、小さな声で「こんにちは」と言って席に座りました。そんな日もあるのだなと思いながら、いざ授業がスタートすると、だんだんと声が出始め手も動かし始めるSくん。みるみるうちにいつもの明るさになり、最後には、「なんか元気回復した!バイバイ!」と言いながら教室をあとにしました。
花まるには、そんなパワーがあります。元気を取り戻しに来ていただければ幸いです。
私は、新たな環境のただ中にいるすべての勇気ある人たちを、心から応援しています。
花まる学習会 山田悠人(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。