【花まるコラム】『心のお守り』柴健太

【花まるコラム】『心のお守り』柴健太

 この年末年始も、恒例の雪国スクールに参加してきました。これがないと年末年始を気持ちよく過ごせないのではと思うほど、私にとってなくてはならないものです。今年はスキーをするコースに参加してきたのですが、出発時には全員話したこともない子同士でスキーを一緒に滑り、転んだ子がいたらすぐに「大丈夫!?」と声をかけ、手を差し伸べ、その思いやりに心を打たれる場面がたくさんありました。

 そのコースに参加していた1年生のAちゃん。彼女は私の教室に通っている子です。教室でのAちゃんはとても明るく、お話しすることも作文を書くことも大好き。楽しむことも考えることも常に全力で、テーブルの子が困っていないか目を配り、困っていたら助け、声をかける優しさも持っています。そのリーダーシップは上級生にも負けず、5月、小学生になって初めての国語大会(国語のゲーム大会)ですでにチームのMVPに選ばれるほどでした。

 そんなAちゃんが雪国スクールでどんな活躍をするかを楽しみにしながら、私は集合場所に向かいました。親元を離れての宿泊経験は初めてだったそうですが、それを感じさせないほどに行きのバスから元気いっぱい。教室での姿と同じ様子で、生活する班の子たちともすぐに仲良く話をしていました。
 着いてすぐにはじまったスキーも絶好調!まずは翌日にリフトに乗って滑るための練習をしたのですが、転んでも、なかなか止まれなくても、諦めません。引率のリーダーからのアドバイスも目を合わせて真剣に聞き、「はい!」と気持ちのいい返事。ブレーキも少しずつ利くようになり、見事翌日は朝からリフトに乗れることになりました。

 宿に戻って夜ごはんを食べて、夜の活動も終え、お風呂に入って…と続き、あとは寝て明日を迎えるのみでしたが、そのAちゃんに試練が訪れました。
 いよいよ寝るときになって、さみしくなって涙が止まらなくなったのです。明日のスキーもしたいし、みんなといるのも楽しい。だけど、お母さんがいないことに耐えられない。寝ないといけないのもわかるけれど、さみしさがあるから寝られない…そんな葛藤を抱えていることがわかります。そんなときでもまわりの子が起きないようにと声を抑えて泣くという思いやりは忘れないAちゃん。初めてのお泊まり、慣れない場所での生活を彼女なりに我慢して乗り越えていたことがよくわかりました。
 泣き止むまでリーダーが横になりながら付き添い、その腕にしがみついたまま眠りにつき、彼女の長い戦いの一日が終わりました。

 翌日のAちゃん、朝から「おはようございます!」といつもの調子に戻っていました。その日はスキーづくし。昼からは吹雪くこともあってコンディションは悪くなっていきましたが、最後まで音を上げることなく、みんなと滑りつくしました。
 班のみんなと協力して出し物を作って発表もし、彼女は笑顔いっぱい。初めてのお泊まりのさみしさは乗り越えたな、と思うほどの充実ぶりでした。しかしその夜、またさみしさがこみ上げてきました。
 寝る前に、リュックから取り出したのはお守り。それをじっと見つめているAちゃんを見て、リーダーが「今日はそれをもって寝る?」と聞きました。
 すると彼女は首を横に振り、そのお守りをじっと見たあとリュックにしまい、横になったのです。
 その後は眠れずに翌日の打ち合わせをしているリーダーのもとにやって来ることもありましたが、初日のように涙を流すことはなく、眠りました。後日、教室で「2日目も少しだけ泣いた」と教えてくれましたが、それを見せまいとしていたのでした。

 最終日、お迎えに来たお母さんとお父さんとリーダーが、Aちゃんの3日間の成長をお話ししていました。「親ばかですみません…!」と嬉しそうに聞いていたご両親の隣には、お父さんとお母さんにやっと会えた嬉しさと、誇らしさが混ざった表情を浮かべたAちゃんがいました。

 初めての経験で不安になったり一歩が踏み出せなかったりすることは特別なことではありません。そのときに支えてくれるのは近くにいる大人もそうですが、何よりもお母さん。お母さんに喜んでもらいたいから頑張り、我慢もできるのが本心だと、彼女を見ていて強く感じたのでした。

花まる学習会 柴健太(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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