GWに学生時代の友人たちとのオンライン飲み会があり、近況報告や思い出話に花を咲かせました。オンライン飲み会だと、お子さんが画面にひょこっと顔を見せることもあります。このときは一児の母である、友人Aさんの画面に5歳のかわいい女の子がノートを持って、
「ママ~、お絵描きしよ~」と登場しました。
「いいよ、ちょっとだけね」
「ママ、ここに道をかいて」(ミニカーを走らせる道を描いてほしかったようです)
「はい、描いたよ」
「え~、もっと大きい道がいい!」
「そう? この車が通れる広さだと思うけどな~」
という何気ないやりとりが聞こえてきたのですが、母である友人の話し方が私には興味深く感じられました。声は優しく愛情も伝わるのですが、Aさんがいつも私達と話すときと同じように、冷静で淡々としたトーンでわが子と話をしていたのです。そのことを私が突っ込むと、Aさんは「意識してそうしているんだよね。うちではこれが普通だけれど、世間一般のご家庭とは違うのかな?」と逆に質問されました。
「世間一般のご家庭」と言われ、ふと、どのような家庭だろうと考えました。教室でもさまざまなご家庭の話を聞きますが、みなさんそれぞれ違います。そのときは「世間一般のご家庭なんて幻だよ」と冗談で返したのですが、この会話が私のなかにずっと残っていました。
今月は面談期間ということで、いつも以上にたくさんの保護者のみなさまとお話をさせていただきました。おうちでのエピソード、学校での友人関係、読んでいる本や好きな遊びの傾向。多くの話題を通して、授業中の様子だけでは見えない子どもたちの新たな一面を知ることができました。面談では、質問や相談をされることもあります。今回多くいただいたのは「ほかのお子さんやおうちだと、どうですか?」「○年生だと普通は△△ですか?」という質問でした。
たとえば、あるお母さまからはこんな相談を受けました。「もう3 年生だから自分で本を読んでほしいけれど、まだ読み聞かせをしてほしがるんです。3年生なら、ほかのお子さんは読み聞かせを卒業していますよね?」
確かに、読み聞かせは小さい子向け…というイメージをもつ方が多いと思います。ですが、別の3年生のお母さまからは「読み聞かせが大好きだから、寝る前にその時間があって…」というエピソードを聞きました。さらに別のお母さまからは、「年長なのに読み聞かせを卒業しちゃって、逆に私が寂しんです」という話を聞いたこともあります。「読み聞かせ」だけでも一人ひとり、ご家庭によってこんなに違います。まさに十人十色です。
「読み聞かせ」の話題が続いたからでしょうか。数年前に担当していた4年生の女の子が書いたある作文を思い出しました。そのご家庭では家族みんなで川の字になって寝ていて、お母さまが妹さんに読み聞かせをしているそうです。その作文には「私は、お母さんに本を読んでもらうことはもうないけれど、妹が読んでもらっているのを横で一緒に聞くのが好き」と書いてありました。一人で本を読める子でも、読み聞かせが好きだったり、お母さんとの大事な時間だと感じたりしていることがあります。
Aさんが言っていた「世間一般のご家庭」のように、私も「男の子あるある」「長子あるある」など、よくあるパターンを保護者の方にお話しさせていただくことがあります。ですが、子どもたちと向き合うときは「男の子だから」「○年生だから」はあまり考えておらず、「Bちゃんだから」「Cくんには」という気持ちで接しているな、と面談をしながらふと思いました。私がAさんにとっさに返した「世間一般のご家庭なんて幻だよ」は冗談ではなく、心の底で思っていたことだったのだと気がつきました。
ちなみに、読み聞かせのご相談をいただいたお母さんには、その子の心の成長段階で読み聞かせをしてほしいときなのかもしれない、お母さんを独り占めできる時間なのかもしれない、とお話させていただきました。「○年生なら普通は…」と不安になるのは、保護者のみなさまがわが子を想うからこそです。だからこそ花まる教室長として、「世間一般」「普通」にとらわれずに、その子自身の、そのときの成長のために必要なものを一緒に考えていけたらと思います。
花まる学習会/花まるオンライン 富永真子(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。