【花まるコラム】『11年目のサマースクール』花岡宏哉

【花まるコラム】『11年目のサマースクール』花岡宏哉

 今年の夏、サマースクールの「サムライの国」というコースでWさんと再会しました。Wさんは年長から中学3年生までの10年間、花まる学習会と進学塾部門 スクールFCに通っていました。
 ともに過ごしたのは昨年度、彼女が高校受験に挑む中学3年生の1年間でした。何事にも丁寧に誠実に取り組むタイプで、定期テストの範囲を隈なくインプットしていました。1~3年生のあさがお(転写教材)・サボテン(計算教材)でコツコツ積み上げる力を伸ばし、4~6年生の「わからないままをゼロにする」学習法で実力を高めていました。誰よりも早く自習室に来て、誰よりも遅く帰るくらい熱心に取り組む姿勢が本当に頼もしかったです。

 そんな彼女には用心深いがゆえに「ここまでやったから大丈夫」というよりは「どこまでやっても不安」になってしまう一面もありました。
 年が明けてすぐに開催される高校入試の直前特訓では、「やり残したこと」ではなく「まだできること」に目を向けよう、ということを伝え続けました。いま振り返っても、入試当日まで本当に粘り強く戦い抜いた。そう断言できます。

 結果は…第一志望校にほんの少し手が届かず不合格。悔しさをこらえながらも報告に来てくれました。「この1年でポジティブに考えることができるようになった。落ちてしまったことは悔しかったけれど、それ以上に大切なことをFCが教えてくれた。高校でも引き続き頑張りたい」そう力強く語る彼女を見つめながら「試練を肥やしにして立派に育ってほしい」と強く思いました。

 話は冒頭の場面に戻ります。高校生リーダーとして参加したW さんは、最初は高校生リーダーとしてどこまでかかわっていいかわからず遠慮している様子でした。中学生までのWさんであれば、私はすぐに声をかけていたはずです。ただ、いまのWさんは高校生。自分で一歩踏み出してほしいと思いグッと堪えました。すると、時間が経つにつれ、子どもたち、そして大人のリーダーとコミュニケーションをとっていったのです。Wさんにとって、今回のサマースクールは学びの場であるとともに、仕事の場でもあります。「仕事とは何か」を自分で考え、心の壁を乗り越えていきました。

 子どもたちと遊ぶときは同じ目線で全力で遊ぶWさん。子どもたちはみんな彼女のことを大好きになりました。
 サムライの国では夜に「軍議」と呼ばれる作戦タイムがあります。その時間は、子どもたち一人ひとりが輝く場。子どもたちの言動に注目し、それぞれのエピソードを忘れないよう大量のメモを取り、その夜には同じ班を担当しているリーダーに目を輝かせながら話をしていました。

 四六時中、子どもたちのことを考えているWさんに子どもたちが惹かれるのも当然。彼女のまわりには自然と子どもたちが集まっていました。「誠実さ」「温かさ」など、彼女の良さを言葉で伝えることはできますが、子どもたちの表情が、距離感が、すべてを物語っていました。

 思い出したのは、私自身が高校2年生のときに高校生リーダーとして参加したサマースクール。私も、小1から9年間花まる学習会とスクールFCに通い、たくさんの先生たちに育てられながら成長しました。
 久しぶりに会う先生たちにいつも言われていたのが、「こうやって卒業生が帰ってきてくれることが、この仕事をしていて一番幸せな瞬間なんだよ」という言葉でした。正直、私は高校生のときや、大学生で講師をしていたときはその言葉の重みを感じませんでした。しかし、いまこうして教え子たちを迎える立場になって初めて卒業生の成長を見ることができて幸せだと感じます。
 花まるが目指す理念に「メシが食える大人」、言い換えれば「自立・自活できている大人」という言葉がありますが、卒業生はその答えを証明してくれる存在です。
「来年も必ずサマースクールに参加します!」
これはWさんが帰り際に残した言葉です。中学生時代の校舎での言葉、そして高校生となった今夏の言葉、教え子の言葉でさらに頑張れます。

 卒業生の与えるエネルギーの力強さを感じ、私自身も頑張ろうと思えた夏でした。

花まる学習会 花岡宏哉(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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