【花まるコラム】『やり続ける力』前原匡樹

【花まるコラム】『やり続ける力』前原匡樹

  私の娘(1歳半)は、部屋にあるさまざまなものを出しては観察することに夢中になっています。ときには部屋の引き出しを片っ端から開けることも。 開けてほしくないところもあるため、妻と相談し、テープで引き出しをとめることにしました。とめ始めた当初、娘はテープの存在に気づかず、「私、開けられなくなったんだわ」と諦めていたのですが、あるとき、テープの存在に気づいたのです。気づいてすぐに開けられたわけではないのですが、「開けたい!」一心で、一生懸命テープをはがそうとしたり、強引に引き出しを引っ張ったりと、試行錯誤していました。その結果、数日後にはテープをはがして引き出しを開けられるようになったのです。ここまで来ると、私も妻もお手上げ状態でしたが、一方で「娘のやり続ける力、すごいなぁ」と、しみじみと思ってしまいました。

 「GRIT」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
Guts(度胸):困難なことに立ち向かう
Resilience(復元力):失敗しても諦めずに続ける
Initiative(自発性):自分で目標を見据える
Tenacity(執念):最後までやり遂げる
これらの頭文字をとって「GRIT=やり抜く力」と言われています。心理学者のアンジェラ・リー・ダックワース氏により提唱されたこの力、彼女は著書で「才能やIQ、学歴ではなく、個人のやり抜く力こそが、社会的に成功を収める最も重要な要素」と述べており、近年「成功者の共通点」として注目されています。

 親バカですが、娘の引き出し開け事件も、見方を変えると、このやり抜く力を育む機会かもととらえています。親とすれば「やめてくれ」と言いたいのですが、娘は、「引き出しのなかを見せて!」と思い、失敗しても諦めず、やり遂げる体験を得たと思えば、許したくなりました。

 私がAくんと出会ったのは彼が3年生の頃。楽しげに音読し、キューブキューブに夢中になるなど、花まるを楽しんでいましたが、計算の反復教材「サボテン」の時間だけは暗い表情でした。計算が大嫌いなのです。「ぼくはほかの子よりできないから」が、出会った頃からの口癖でした。ご存じの通り、「サボテン」で大事なことは、「前の自分に勝つこと」。彼がいるテーブルを担当していた先生も、「サボテン」になると彼の表情が暗くなることを知っていました。そこで、その先生がしたことは、「サボテン」終了後、毎回その子のそばに行って「Aくん、今日はどうだった?」と確認することでした。全体で確認すると届かないなら、「Aくんへのメッセージ」として届けようと、一対一の時間を作ったのです。前の自分に勝てたときは、「やったね!前の自分に勝ったね!」、勝てなかったときも「先生も悔しい。次は勝てるように頑張ろう!」と伝え続けたのです。
 彼が4年生のとき。好きな教材というテーマで作文を書いたことがありました。大多数が「なぞぺー」と書くなか、彼が書いたのは、なんと「サボテン」。作文にはこう書かれていました。

 ぼくは「サボテン」が好きです。前は好きではありませんでしたが、「前の自分に勝つ」という気持ちでやると、自分の成長がうれしくなります。

「ほかの子よりできない…」と言っていた彼はもうそこにいませんでした。そこにいたのは、「伸びる楽しさを知った」彼です。彼は、先生と一緒にやり続ける楽しさを知り、諦めずにやり続けたことで、「サボテン」をやり切る貴重な経験を得られました。

 娘を見ていると、「やれることが増えてくる過程で、やり続ける意欲も培われているな」と思うことがあります。しかし、計算が嫌いだったAくんのように、大きくなるにつれ、まわりが見えだして「友達より自分はダメなのか?」と思い、諦めたくなることもあります。でも、Aくんが「サボテン」の壁を乗り越えられるようにそばで声をかけ続けた先生のような人が「一緒に頑張ろう」と支えてくれたら、またやり続けられると私は信じています。

 4月、学年が上がり、子どもたちはまた新しいことと出合います。新しい=初めてとも言え、すぐにできないこともあると思います。それでも、子どもたちがやり続けられるように、私はそばで一緒に喜び、一緒に悔しがりながら支えていきます。

花まる学習会 前原匡樹(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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