【花まるコラム】『どんなものでも宝物』上武美貴

【花まるコラム】『どんなものでも宝物』上武美貴

 足元を踊る色とりどりの落ち葉や風の冷たさに、晩秋の訪れを感じる季節となりました。昼夜の気温差がありますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

 今回は、年長クラスでの出来事についてお話ししたいと思います。年長コースには、「思考実験」という時間があります。ねらいは「ものそのものに徹する」 こと。幼児期のうちに実物を使って手を動かしながら考える経験を積むことで、小学生以降の思考力を問われる問題で、頭のなかでイメージして考えることができるようになっていきます。

 先日の思考実験のテーマは「紅葉」。公園や道、庭や幼稚園・保育園から「秋にかんするもの」を集めてくる事前準備からスタートしました。子どもたちが集めてきたものは、赤や黄色に色づいた落ち葉、どんぐり、松ぼっくり、ねこじゃらし、ススキ、木の実…など。一生懸命集めた、秋を感じさせる自然のものです。教室に到着した瞬間から得意顔の子どもたち。「見てー!こんなにたくさん集めたの!」「これはママが拾ってね、これは僕。僕のほうがいっぱい見つけたんだよ!」「公園でたくさん拾ったんだよ」と、頭のなかは集めた秋でいっぱいです。

 まずは五感を使って持ち寄ったものに触れていきます。「黄色の葉っぱはどれかな?」「ザラザラする葉っぱはあるかな?」「どんな匂いがする?」などと子どもたちに問いかけました。毎日目にしているものでも、改めてじっくり見るとさまざまな発見があるようです。素材そのものを感じていくと、「木の実を食べたい!」という声も。興味がある証拠だなと感じ、嬉しく思います。見て、嗅いで、触って、たくさん感じたあとには、作品を作りました。子どもたちは思い思いに集めてきた秋の素材を並べていきます。

 そんなとき、Mちゃんがあるものを見つけました。「どんぐり虫だ!」拾ってきたどんぐりのなかから、小さな芋虫の形をしたどんぐり虫が出てきました。それを見たMちゃんは「きゃー!こわい!いやだ!」と叫んで涙目。虫があまり得意ではない様子でした。しかし、ほかの子たちがそれを手に乗せて「どんぐり虫が出てきたね!すごいね!」と言うと、「えっ、すごいの?」と目をまん丸にしたMちゃん。そして、Mちゃんも自分の手に乗せて観察しはじめました。さらに、小さな指で撫でながら「かわいい」とつぶやいたのです。ついさっきまで怖いものだったはずが、宝物に変身した瞬間でした。

 何がそうさせたのかを振り返ってみると、まわりの子どもたちのことばでした。「すごいね!」という一言が、Mちゃんの気持ちを変えたのです。
 授業では、同じようなことがたくさん起こります。初めて見る問題に対して「わからない」「難しそう」「面倒くさい」と言って取り組めば、なかなか成長できません。 「ぼく、わたしならできる!」と前向きな気持ちで立ち向かえば、その後の成功体験や達成感へと繋がります。

 子どもたちが、自分を信じて一歩を踏み出せるように。私は、いつでもどんなことにでも、背中を押すことができる存在でありたいと思います。子どもたちが自らのことばで自らを奮い立たせることができるように、今日も私は、一人ひとりのパワーにつながることばを贈ります。

花まる学習会 上武美貴(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事