【花まるコラム】『内なる対話にであうとき』佐々木汐莉

【花まるコラム】『内なる対話にであうとき』佐々木汐莉

 最近、3歳になった息子との会話がより楽しくなってきました。言葉以外でのコミュニケーションもまだ多いのですが、息子が心の内を話してくれることが増えてきました。保育園の連絡帳を読み上げておしゃべりするのも日課の一つです。「避難訓練でしゃべらずルールを守っていました」と書かれていた日は、息子が「せんせいがしゃべらないでっていってたから、ぼくはしゃべらなかった。けどHくんはしゃべってた。だめだよね?」とそのとき感じたことを言葉にしてくれました。「そう感じたのか」と共感しながらも、自分が同じ立場にいたらどう感じるだろう、私はどう捉えてどんな行動を選択するのだろう、と自分のなかで問いが湧いてきます。そして「べき論」を横に置いて、(私はこう思うな)と率直に話ができたときに、また彼が静かに考え出す瞬間に出合うことがあります。

 先日、家族で山登りをしたときのこと。身の丈ほどの長い枝を見つけて山登りのお供にしていた息子。ケーブルカーに乗るときに「これ、もっていっちゃダメかな。どうしよう。すてる? かくす? (ルールを守って捨てる? ルールを破って隠す?)」と突然立ち止まり一人でつぶやく瞬間がありました。そこで立ち止まり考えたこと自体に驚きつつ、「そもそも長い枝をケーブルカーに持っていってはいけない、というルールはないんだ」と伝えたうえで、「でもこれにぶつかると怪我をする人がいるかもしれない、危ないかもしれない。そもそも自分はどうしたい?(枝を手離していい? 手離したくない?)どうしたらみんなにとっても自分にとってもいいのかなぁ?」という話をすると、しばらく考え「おってもっていく」とつぶやいた息子。自分の心に向き合い、まわりの気持ちを加味したうえでどうするか、彼が決めた瞬間でした。一瞬(本当に折ってよかったのかな)という気持ちが湧きましたが、彼の堂々たる表情から納得して枝を持ち込んでいることがわかりました。

 おやこクラスでも、子どもたちが心のなかで対話をする瞬間に出合うことがあります。先日の2~3歳&年少クラスの粉あそびでは、3歳のTちゃんが使っているお鍋を見て「それを私も使いたい」と年少のSちゃんが言葉にするシーンがありました。Tちゃんはその言葉を耳にしたあとも、静かにお鍋をかき混ぜます。いままでは「かして」と言われたら「いいよ」と渡すシーンも見ていましたが、今回ばかりは貸したくないという様子。葛藤し相手の様子を感じながら、どうするか心のなかで対話している様子でした。(自分とまわりの心を見てどうするか考える力がついたな、たくましくなったな)と感じつつ声をかけ、いったん見守ることに。一方、Sちゃんは(あなたもやりたいんだよね、でも私もやりたいの)といった様子で、自分の遊びを続けながらTちゃんが貸してくれるのを待っていました。その結果、Tちゃんはその鍋を使い続けると決め、Sちゃんは代わりに大きなボウルを使うことに決めたのでした。その日のTちゃんのママの「感じたことキロク」には、おうちに帰ってから「あのときどんな気持ちだった?」と聞いてみたことが書かれていました。あの時間にTちゃんの心のなかで何かがめぐっていたことを感じ取って聞いてみたのでしょう。すると「まだ遊びたいなって思った。でもなんていえばいいかわからなかった」という言葉が彼女から出てきたそうです。受けとめたうえで「『まだ使いたいから待っていてね』と言うと伝わるよ」と対話したことが書かれていました。そして「まだまだお友達とのかかわり方を勉強中。見守ってくれた大人たちの温かい目線がありがたかったです」と締めくくられていました。そのとき(あぁ…生きた学びだな)と感じつつ、おやこの対話の尊さに想いを馳せました。大好きなわが子がどんなことを感じ、どう考えたのか、それを受けとめる時間 ―― 成長し続ける人たちとの時間は、自分の時間も豊かにしてくれるなと感じています。日々うまくいくこともあるし、もちろんいかないこともある。こんなことがあった、こう感じた…そんなやり取りは忙しいなかでもとても大事にしたい時間だなと感じています。

花まる学習会  佐々木汐莉 (2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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