【花まるコラム】『言葉に隠れた気持ち』島村有香

【花まるコラム】『言葉に隠れた気持ち』島村有香

 「手袋がはめられない。しまむー(野外体験時の私のリーダーネーム)、やって」
「両方ともできなかった? 片方の手なら、はめられるんじゃないかな。もう一度やってごらん」
「(適当にはめて)できない」
「グッと自分のほうにひっぱるんだよ」
この数回のやりとりのあと…。
「もう! できないよ!」と2年生のAちゃんはふてくされてしまいました。

 これは先日、私が参加をした雪国スクールでの出来事です。この日は二日目の午後、スキーに取り組める最後の時間の前でした。いま思うと、疲れもピークで甘えたい気持ちも出てきていたのではないかなと思います。

 なかなか気持ちの切り替えができずにいたAちゃんのもとへ真っ先に駆け寄ったのは、班で最年長の5年生Bちゃんと、Bちゃんといつも一緒に行動していた1年生Cちゃんでした。私があえて少し離れたところから子どもたちの様子を見ていると、「このメンバーでスキーができるのは今日で最後だよ? 一緒に行こうよ!」などと懸命にAちゃんに語りかけているのが聞こえてきました。

 Aちゃんの心が開きかけた頃、子どもたちと代わって、Aちゃんの目をしっかり見ながら今度は私が声をかけました。
「Aは頑張って手袋をはめようとしていたんだよね」
「それなのに“頑張れ頑張れ”って、しまむーは応援しかしなくてごめんね」
「このあとも、もしかしたらうまくいかないことがあるかもしれない。そのときは遠慮せずにしまむーに言ってね。でもさ、Aがあともうちょっと頑張ったら自分の力でできそうだなって思ったら、“もう一度頑張ってごらん”って言ってもいいかな?」
Aちゃんは「いいよ」とハッキリ答えました。このあとのスキーの練習時間にAちゃんはメキメキと成長し、緩やかな斜面を何回も楽しそうに滑り、「また初日に戻りたいな~!」と満面の笑みで言うほど充実した時間を過ごすことができたのです。

 今回のAちゃんの件。当初の私は、“自分でできることは自分でやれるように”という想いをもって接していました。だからすぐにやってあげるのではなく、まずは自分で頑張るように声かけをしたのです。しかし、気持ちが不安定なときにただただ応援されても「この人は助けてくれない」というマイナスの気持ちが膨れ上がってしまうだけだったのでしょう。そこでAちゃんが前向きになりはじめたタイミングで、気持ちをわかってあげられなかったことへの謝罪、そして私の想いを伝えました。すると、Aちゃんはすっきりと気持ちを切り替えることができました。
 子どもの言葉や行動の背景にあるもの。それを考えずに自分の気持ちや正義だけを押しつけても、一方通行で終わってしまいます。子どもたちの表面の感情だけではなく、その奥に隠れた気持ちにも気づけるようになりたいと思った出来事でした。

花まる学習会 島村有香(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事