――「やりきった」がほしい。
いつかの「やりきった」に出合うために、
トレーニングし続けています。――
某テレビ番組で、元陸上競技選手の福島千里さんが言っていた言葉です。100mの日本記録保持者であり、陸上競技の短距離界を10年にわたって牽引してきた福島さん。日本選手権や世界選手権、オリンピック…数ある大舞台に立ってきた福島さんのその言葉に、「重み」を感じました。自分の身体一つで、0.1、0.01秒を競う。いつ、その努力が実を結ぶかわからないシビアな世界で戦い続ける。福島さんの「やりきった」というゴールは、いったいどこにあるのだろうと思いました。福島さんは続けてこう言いました。
――結果が出たら、もちろん嬉しい。
しかし、それだけではない。
可能性に懸けるのが楽しい。――
できるかどうかはわからない。もしかしたらうまくいかないかもしれない。それでもいいから可能性に懸けて挑戦してみたい。その先の「やりきった」に出合うために。なんともわくわくする言葉です。
* * *
「今年は花まる漢字テストで一度も合格したことがない…。ぼくも合格の賞状がほしい」
2学期の花まる漢字テストが終わり、合格者に賞状を渡していると、小学3年生のKくんがぽつりとつぶやきました。年に3回の漢字テストのうち2回が不合格、最後の漢字テストまでは残り3か月弱という頃でした。
「漢字練習やらなくちゃ。やらないと合格できないよね」
一緒に頑張ろう。Kくんの合格という可能性に懸けた努力の日々が始まりました。
Kくんは漢字練習のような反復練習を大の苦手としていて、いざやろうにもなかなかその手を動かすことができませんでした。いままで漢字練習をやってこなかったため、どこからどのようにすればよいのか、わからない様子。まずは、「漢字練習をやった。頑張った」という達成感を目に見える形で残してあげられるようにしたいと思い、こんな学習方法を提案しました。
➀マス目の漢字練習ノートではなく、自由帳を使用する。
②1ページが6マスになるように線を引く。
③1マスに1つの漢字を大きく書く。
普段使用している漢字練習ノートよりもマス目が大きく、のびのびと漢字を書くことができます。小さなマス目に漢字を書くことが窮屈だったKくんにとって、このマス目の大きさ、書きやすさが漢字練習のハードルを低くするきっかけとなりました。また、1ページあたり6マスのため、1冊が終わるペースが速く、努力した分2冊、3冊…と冊数が増えていくことに一番のモチベーションを感じていたようでした。
「いままではやりたくない、めんどくさいという気持ちばかりだったけれど、やってみたらできた。ほら!こんなに書いたの!」
と言って、ノートを見せてくる姿はなんとも頼もしかったです。
テストも無事に終え、いよいよ返却日。彼は手に取ったテストを自身の手で開くと、そこには、「合格」の印が。「よっしゃぁ~!」と大きくガッツポーズをし、飛び跳ねて喜んでいました。
授業後、Kくんのお母さんからこんなメールが届きました。
漢字テストで初めての合格!家に帰ってきてすぐに、合格印がついた漢字テストを壁に貼りだしました。よく見るとそのテストには、
「ちょう、うれしいんですけど!やりきった!」
とKのコメントが。やればできる、やったぶんだけ成果としてあらわれること、身をもって知ったことと思います。
「やりきった」と思う瞬間は大なり、小なり、人それぞれだと思います。目標に向かって、自分自身と勝負しつづけること、それは時に孤独で、時に辛抱だけれど、そうした日々を鍛錬することによって、「やりきった」瞬間が生まれるのでしょう。Kくんは合格という可能性に懸けて努力したからこそ、「やりきった」に出合うことができました。
可能性に懸けるまでの道筋に明かりを照らし、そっと背中を押す。そして、ともに楽しみ、ともに喜ぶ。そんな存在でありたいです。
花まる学習会 生井ちま(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。