【花まるコラム】『雪景色』坪田充生

【花まるコラム】『雪景色』坪田充生

 「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」川端康成の小説『雪国』の有名な冒頭部分です。12月末の雪国スクールでは、まさにその通りで、群馬県から新潟県へのトンネルを抜けると窓の外は一面真っ白でした。「おぉ~」「すごい!」バスのなかは一気に歓声に包まれます。しかし、真っ白というのは、吹雪で普段は見えている景色も霞んでしまっているという状態でした。外はとてつもなく寒いとわかる状況で、 子どもたちは雪を見てテンションが上がっていますが、自分としては「厳しい寒さが待っているぞ。大丈夫か?」という気持ちでした。

 私が参加したのは、スキーの基本を練習する「ベーシックスキークラス」。私の班の子どもたちは、初めて・久しぶりのスキーに不安や緊張でいっぱいの様子でした。

 いざゲレンデに到着すると、積もっているのはサラサラのパウダースノー。私としては、スキーをするには最高のコンディションだなと思っていました。しかし、その雪の上を歩くのは大変です。それに加えて、子どもたちは慣れないスキーブーツを履き、スキー板を抱えています。集合場所まで行くのにも一苦労。いざスキー板を履こうとすると、ブーツの足裏についた雪に阻まれ大苦戦。雪が降るゲレンデにもかかわらず子どもたちの頬は熱をもって赤くなっていました。やっとの思いでスキー板を履きリフトに乗ると、今度は雪と風の吹きつけるなか、ずっと座っているので気がつけば体にも雪が積もっていました。私と一緒にリフトに乗ったHくんは「寒くなってきた!」と雪を払っていました。さあ、いよいよ頂上に到着。子どもたちと滑り始めますが、久しぶりのスキーでなかなか上手に滑ることができません。

 ゲレンデに到着してからというもの、子どもたちは真剣そのものでした。スキー板を持って歩くのにも一生懸命。リフトに乗ると、いつ頂上に着くのかとそわそわ。滑り始めは上手く止まれずに尻もち。そこからリーダーのアドバイスに耳を傾け、必死に坂を下りて行きます。

 練習を続けると、徐々に子どもたちが勘を取り戻し始めます。足をハの字にしてブレーキをかけ、止まることができるようになります。ここまでくると、子どもたちに少しずつ余裕が生まれてきます。スムーズに止まれるようになった子どもたちは、いままで斜面を睨むように下がっていた視線を上へ移すことができるようになりました。私の近くでほかの子を待っていたKくんが 「きれい…」と呟きました。見ると、風に流れる雪の向こうにスキー場の照明が滲むように浮かび上がり、幻想的な光を放っていました。それがコースに沿って続いています。Kくんはそれをほかの子が来るまでずっと眺めていました。風が吹き、雪が降って、決していい天候とは言えません。しかし、だからこそ見ることができる景色がそこにはありました。

 二日目の子どもたちの成長はたくましいの一言に尽きます。雪の上を力強く歩き、スキー板を履くのにも慣れ、ブーツについた雪を自分で落とすことができる子も増えました。休憩中も「早く滑りたい!」の大合唱でした。体の冷えるリフトでも、「雪の結晶を見つけた!」と子どもたちなりに楽しみを見つけて過ごしていました。思い返してみると、二日目は子どもたちから「寒い」という訴えはほとんどありませんでした。

 花まるの雪国スクールは、スキーの上達だけでなく雪山という厳しい自然のなかで逆境に立ち向かうことや、その厳しい自然が見せてくれる美しい景観を楽しむことも醍醐味だと思っています。そういった意味で、今回の自然の厳しさは、子どもたちにとっていい先生になってくれたのではないかと思います。

花まる学習会 坪田充生(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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