【花まるコラム】『飛び込み』箕浦健治 2019年5月

【花まるコラム】『飛び込み』箕浦健治 2019年5月

 数年前のサマースクールでの出来事です。
「ファイヤー、俺…勇気がないんだよ!」
いつも元気なKくんが、授業前に私のそばにきてポツリとつぶやきました。
 私は平静を装って、 
「何をする勇気がないの?」
と聞きました。しばらくKくんは考えて、
「一人で泊まることや飛び込むこと…」
そこまで聞いて私は察知しました。数日前にKくんのお母さんと私でサマースクールのコースをどこにするか相談したばかりでした。
「行きたくないの?」
と優しく尋ねると、Kくんは首を横に振って…
「そうじゃない。行きたいけど。怖いんだよ」
「じゃ一緒に飛び込もう!寝るときもダメだったらファイヤーに言うんだよ」
Kくんは静かに首を縦に振りました。
 
 Kくんが参加したのは、川遊びの国でした。みんなが飛び込み場所に移動してもKくんは浅瀬で遠くを眺めていました。
 しばらく見守っていると、Kくんが少しずつ飛び込み場所に歩きはじめました。ゆっくり、ゆっくり…。時々立ち止まり、そして歩きだす…。戦っているんだと思いました。飛び込んでカッコイイ自分になりたい気持ちと、怖い気持ちと。
 飛び込み場所に到着しても、なかなか飛べないKくん。遊び時間が残り10分になった時に、Kくんは私をまっすぐ見つめて何かを言いました。私はKくんと離れた場所にいたので、Kくんの言葉を聞き取ることができませんでした。それでも何度も何度もKくんは私に話しかけています。口だけを見て判断すると…
「た……け…て」
「たす…け…て…」 
最後ははっきりとわかりました。
「たすけて、ファイヤー!」
 
 私は、Kくんのいる飛び込み場所に急ぎました。私がそばに行くと、Kくんはそっと私の手を握って、
「無理かも…」
と言いました。
「いいんだよKくん。ファイヤーはお母さんと飛び込ませるって約束してきたけど、Kくんとは約束していないから」
Kくんはずっとうつむいたままです。
「ここまで頑張ってきたことがすごいことだよ。勇気を出したね!」
その言葉にも反応しないKくん。私の手を握る力がだんだん強くなってきました。
「あと3分で集合だぞ!」
コースリーダーの声ではっとしたKくん。私の手を握ったまま、飛び込み場所に行きました。
「決めるのは、Kくんだぞ。ファイヤーは結果がどうであれ、Kくんの勇気は認めているから」
「飛びたいんだ…お母さん喜ぶかな…。怖いけど、行くから…」
私の手を最後ぎゅっと握って、離しました。そして、少しずつ前に進んで、青空を見上げました。大きく息を吸い込んで…。

 スローモーションのようにKくんの姿が見えなくなりました。気がつくと、下から歓声が上がっていました。飛び込んだKくんの周りに、班の仲間が集まっていました。
「やったな!」
その声に満面な笑みで応えていたKくん。解散時にその様子を伝えるとお母さんは号泣でした。その横で誇らしげにKくんは笑っていました。最後、
「また来るから。次はもっと飛び込むから」
とKくん。
 小さな成功体験が子ども成長させると考えています。感動の夏が待ち遠しいです!

花まる学習会 箕浦健治


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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