【花まるコラム】『何度でも、できるまで』鈴木弥生

【花まるコラム】『何度でも、できるまで』鈴木弥生

 “毎日続けていること”はありますか。私は恥ずかしながら、三日坊主の常習犯です。部活動や仕事など、自分の軸となるものは長く続くのですが、思いつきで始めるものは大体長続きしません。先日も、「夏に向けて体力をつけるぞ!」と気合いを入れて筋力トレーニングをしたものの、次の日にはやるのを忘れて寝てしまいました。また思い立ったら始めようと思います。
 何かを続ける、というのは、大人でも難しいですよね。子どもにとっては、まさに宿題が「続けるべきだけれど簡単ではないもの」の一つ。特に、高学年になると花まる学習会でも宿題の量がグッと増えます。習慣化するまでは苦戦する子もいます。4年生のAくんは、当初宿題に苦戦していた一人でした。

 Aくんは毎回、宿題の範囲を何度も先生に確認していました。メモをとって、今週こそ頑張ろうという気持ちで帰っていくのですが、いざ帰るとスイッチが切れてしまい、宿題に着手できません。そして、
「今週もできなかった…」
と肩を落として授業に来るのでした。
 ある日、宿題についてAくんと1対1で話をしました。宿題は先生との約束であること、Aくんには約束を守れる人になってほしいことを伝えると、真剣な表情で聴いていたAくんは、最後に大きくうなずきました。
 その次の週は、少し宿題をやってくることができました。しかし、範囲を間違えたり、途中でやめたのを忘れて一部しかできていなかったりと、すぐには完璧にできるようになりません。何週間もその状態が続き、そのたびにできたことを認めながらできなかったことについて話し合いました。
 そしてある日、Aくんがいつになく胸を張って教室にやってきました。ついにすべての宿題を終えてくることができたのです。口数の多くないAくんはクールに決めていましたが、嬉しさが表情に滲み出ていました。
 一度習慣になれば、それまでよりもだいぶ楽になります。Aくんも夏頃には、ほとんど抜け漏れなく宿題をやって来れるようになりました。はじめは宿題をこなすだけで精一杯だったAくんが、やることが当たり前になり、わかりやすいノート作りに意識を向けるなど、どんどんレベルアップしていきました。
 ある日、「頑張っていること」というテーマで課題作文を書いていたときのことです。Aくんは何を書こうか悩んでいました。テーマを考えるため、Aくんと話していると、
「最近頑張っているのは…宿題かなぁ」
という言葉が彼から出てきました。
「えーっと…難しいなって思っても、最後までやるって決めているから、最後までやるんだ」
と話すAくん。この言葉から、彼の覚悟が見えました。

 宿題がなかなかできない子も、やらなくてはいけないということはわかっていて、できない自分と闘っています。その闘いに打ち勝つには強い意志が必要です。子どもたちを見ていると、そんな理性と本能の間で葛藤しているな、という姿がよく見られます。
 なかには、はじめから「宿題はやるのが当たり前」という感覚を持って取り組める子もいます。また、幼い頃はできていても、年齢が上がると難しくなってしまう子もいます。もちろん、当たり前にできればそれは素晴らしいことですが、そうでなくても「自分はダメだ」と自分を卑下しないでほしいと思います。葛藤している時点で、その子は成長しているのです。そんな子どもの背中を押すことこそ、私たち、まわりの大人の役目だと思っています。

 みなさまのなかにも、わが子が宿題にスムーズに取り組めず悩んでいる方がいらっしゃることと思います。宿題をめぐって子どもと言い争いになってしまうこともあるかもしれません。そんなときはぜひ、ご相談ください。子どもたちが葛藤を乗り越えて、習慣化という武器を手に入れるまで、何度でも相談を繰り返し、全力でサポートしてまいります。

花まる学習会 鈴木弥生(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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