【花まるコラム】『作文は書くよりも「見る」もの』富永真子

【花まるコラム】『作文は書くよりも「見る」もの』富永真子

 オンラインの小学生クラスでは、毎週の宿題に作文があります。家で書いてきた作文を授業中に発表し、講師と友達からコメントや質問をもらいます。作文は本来、自分と向き合って集中する「静の時間」。けれど、オンライン授業中は、楽しく盛り上がる「動の時間」でもあります。そんなオンライン授業ですが、11月の「作文コンテスト」では約40分間、静かに作文と向き合いました。

 作文コンテスト当日。実は授業スタート直前まで、何を子どもたちに話そうか悩んでいました。伝えたいことはたくさんありますが、話し過ぎても消化不良になってしまいます。作文を書くときに参考にしやすい内容で、さらに「こう書くといいよ」と誘導しすぎないようにするには、どうしたらいいか…。「上手に見える作文」を目指すよりも、その子自身の経験や気持ちを見つめた作文にして欲しいと思い、このような話をしました。

 日記は自分のために書いて残すもの。だから短い言葉だけでもあとで見返して、「あのときにこんなことがあったな~」と思い出せる。けれど、作文は人に伝えるもの。読んだ人が一緒にその場にいて、同じことを経験したように思えるように書こう。そのためには、詳しく書くことが大切。詳しく書くためには、「見る」のがポイント。

 そこからは「見る見るゲーム」と称して、風景描写と心情描写をするゲームをおこないました。相手に伝わるということは、読み手が頭のなかで映像をイメージできるということです。カラフルな熱帯魚の水槽の写真を見せて、この水槽を人に伝えるにはどんな言葉があるか、みんなに考えてもらいました。青い魚がいる、細長い魚がいる…くらいの単純な表現でも良いかなと授業前は思っていたのですが、いざゲームが始まると驚きました。「虹色のサンゴ」「水の泡がキラキラ」など、素敵な表現がたくさん。「カメだと思ったら、カメに似たサンゴだった」という、ユニークな表現もありました。

 続いて、「お化け屋敷」というテーマで心情描写をするゲームに挑戦。心情描写は風景描写よりも難しく、「気持ちを表す」と子どもたちに言うと、「楽しい」「怖い」などのシンプルな言葉におさまってしまいます。そこから先の表現方法を考えて欲しいと思い、何が怖かったのか、どんなリアクションをしたのか、具体的に言葉にするよう伝えました。さすが普段から「たこマン」で想像力を鍛えている子どもたち。「怖すぎてお母さんに抱きついた」「ゴールが見えてきて、ほっとした」など、書ききれないほど多くの表現が出てきました。こんなふうに作文に書くと文章に厚みが出てきますし、何よりも自分の心の動きを丁寧に見つめられます。

 そこからは、自分の作文と向き合う時間です。なかには「ペットについて書きたいから、部屋に連れてきてもいいですか?」という子も。「おうち作文」の良い一面です。対面教室だと「どんな色だっけ?」と思い出せずに書きたい一文を諦める子もいるのですが、家なら確認したり、調べたりすることができます。

 書き終わった子は違うオンラインルームに移って講師に発表し、コメントやアドバイスをもらうのですが、それが終わって戻ってきたときの様子が美しく、じ~んと心にくるものがありました。多くの子は少しはにかんだような笑顔で戻ってきました。集中して書ききったばかりの作文をすぐに聞いてもらい、講師から「△△が好きだという気持ちが伝わってきたよ!」とコメントをもらって、ホクホクの気持ちだったのでしょう。「イエイ!」と元気いっぱいに喜ぶのとはまた違う、じんわりと広がっていく嬉しさです。ほかにも、メインルームに戻ってくると同時に作文用紙に筆を走らせる子もいました。アドバイスをもらって書き足す子や、「二枚目を書く!」と張り切っている子どもたちです。この様子を見ただけで、全員に『作文大賞』をあげたくなります。

 授業後に提出された作文を読むと、どれも詳しく書こうと意識したもので、頭の中に映像が浮かぶ作文、その瞬間にどんな感情になったのか伝わる作文、その子の頭のなかが見えるような作文ばかりでした。自分の周囲や内面により深く視線を向ける40分間を過ごした証です。

花まる学習会 富永真子(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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