【花まるコラム】『どうにもならないこと』石須孝志

【花まるコラム】『どうにもならないこと』石須孝志

 先日、『アナと雪の女王2』を観ました。子どもたちに人気のディズニー映画ですが、大人が観ても学ぶことはたくさんあります。アナとエルサ、二人が活躍するプリンセス映画と捉えてしまってはもったいないと思い、映画を見ながらメモを走らせていました。散りばめられた”メッセージ”のなかで、私の心に突き刺さるセリフを発したのは、どんな環境でもゆるぎない信念を持ち続けるオラフです。彼が窮地に追い込まれたとき。アナを励ますかのごとく投げかけた言葉――

“どうにもならないこと”になったら、“どうにかできること”だけをするんだよ

*  *  *

 先日の年長クラスでのことです。折り紙を折って、ハサミで切って開いたらどんな形になるかという“対称性”をテーマとした思考実験をおこないました。一人に与えられた折り紙は4枚です。ある男の子は、次々に形ができあがることを楽しみつつも、たくさんの作品を作ることに喜びを感じて取り組んでいました。そして、最後の1枚を使い切ったところで「もっと、折り紙が欲しい」と私に声をかけました。
 私はそんな彼に対して、「折り紙は一人4枚だからそれ以上は渡せないな」と伝えます。「でも、全部切り終わっちゃたよ…折り紙ください」と彼は続けます。ここで引かずに“交渉”してくるのは、彼の魅力の一つでもありますが…。
 「いろいろな作品ができたんだね。ただ、新しい折り紙を渡すことはできないな…。それじゃ、こうしてみるのはどうかな?作品を持ってきてごらん。――たとえば、切ったものをもう一度折り直して、ここを切ってみるとどんな形になるんだろうね。切ってみる?」そう伝えると、彼は目を見開いて「切ってみる!」と自席に戻ります。ハサミを入れて、折り紙を開くと、表情が変わりました。「あ、ここ切るとね、穴が開くんだ!」と。気づいたことを周りの子にも教えはじめ、新しい遊びを得たといわんばかりに持っている折り紙を使って何度も切り続けます。「こっちを切ったらどうなるかな?もう一度折ってみよう」。

 与えられた環境で“どうにかできること”は、何なのか。自分のやりたいことができる環境を求め続けるのではなくではなく、制限のある環境のなかで考えるからこそ、工夫する力が養われ、新しい発見と感動が見つかるのかもしれません。

*  *  *

 さて、世の中には変えることのできない環境や、変えることのできない生まれ持った特質は一人ひとりにあるように思います。さらにいうなれば、世の中には「どうにもならない不平等」もあるのではないのでしょうか。その“どうにもならないこと”に出合ったときに「自分は○○だからダメなんだ。できないんだ」ではなく、いま、自分が与えられた環境に感謝をしつつ「自分は○○だけど、これはできる、あれもできる」という考えをもてるか否かが、幸せに生きられるかどうかの差になることと思います。

 あなた方は頑張れば報われると信じています。…が、頑張っても報われない社会があなたたちを待っています。頑張って報われてきたことは、あなたたちの努力の成果だけではなく、”あなたたちの環境”のおかげだったことを忘れないでください。(一部のみ抜粋)

 これは、社会学者である上野千鶴子氏が、2019年度東京大学入学式の祝辞でお話しされた内容です。世の中にはたくさんの不自由さがあり、できないことや制限も多々あります。だからこそ、「自分だからできることは何か」「どんな工夫ができるのか」「自分はここで何がしたいのか」、いま置かれている環境に感謝をしつつ、“自分にできること”を考え続けたいものです。

「“どうにもならないこと”になったら、“どうにかできること”だけをするんだよ」

花まる学習会  石須孝志(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事