【花まるコラム】『何事にも「なぜ」がある』尾瀬戸涼

【花まるコラム】『何事にも「なぜ」がある』尾瀬戸涼

 「これなに?」
と母が怒った口調で私に問いました。

 これは、私が幼稚園児の頃の話です。幼稚園から帰った私は、母に鞄を渡しました。その鞄のなかからトレーディングカードが出てきたのです。

 当然、幼稚園には必要なものしか持って行ってはいけません。なぜ、トレーディングカードを持って行っていたのかというと、前の日に友達のKくんがトレーディングカードを持ってきて私たちに見せて、Kくんが注目を浴びていたからです。私もみんなから注目を浴びたいと思いました。考えが浅かった私は「僕も何かを持って行けば注目を集められる!」と思い、家に帰ってからこっそりと鞄のなかにトレーディングカードを入れたのです。

 幼児期の子どもは、自分中心の世界で生きています。自分がなんでも一番になりたいし、話したいことがあれば絶対に聞いてほしい時期。花まるの年中・年長クラスでは、誰か一人が話し始めると、ほかの子も「私はこれ!」「ぼくはこうなの!」と話しはじめます。
 また、目の前のことに夢中になるのも幼児期の特性です。いまその瞬間で夢中になるものが変わるので、少し前のこと、ましてや前日のことなどスコンと抜け落ちてしまうのです。
 幼稚園児だった私は、Kくんよりも注目を浴びられるであろうカードを持って行くことでみんなから褒められたいと思ったのでしょう。しかし、ほかの楽しいことに夢中になってしまい、カードの存在をすっかり忘れてしまいました。残念なことに、みんなから注目を浴びることはなく、ただただ母に不要なものを鞄に忍ばせたことがばれてしまったのです。

 母は私に
「どうしてトレーディングカードを幼稚園に持って行ったの?」
問いました。私はKくんのせいにしようと、
「Kくんが持っていたから僕も持って行った!」
と堂々と主張。すると母は
「Kくんが幼稚園に持って行ったことは悪いけれど、あなたは関係ないものを持って行っていいの?」
と私に問いかけました。

 私はすぐに泣いてしまい、答えられませんでした。しばらくして
「だめ…」
と答えると、母は素っ気なく
「次からは気をつけなきゃね」
と言いました。
私はこの会話で初めて、カードを持って行ったことに強い後悔の念を抱きました。

 なぜここまで詳細に記憶に残っているのかというと、あのとき母に理由を考えさせられたからだと思います。ただ「だめでしょ!」と叱られていたら、恐怖心だけが残り、なぜだめだったのかを考えることはなかったと思います。

 この幼少期の経験から、何事も理由を示すことがとても重要だと考えています。ある日、教室でKくんが椅子をグラグラと揺らしていました。ただ「危ないからやめてね」と伝えるのではなかなかやめてくれません。そこで、一度授業を止めて子どもたちに問いました。
「なんで椅子を揺らしちゃだめなんだろう?」
すると手を挙げた1年生のTちゃんが
「うしろに倒れるから」
と言いました。すると、3年生のYくんが
「追加であります!」
と自ら挙手。
「うしろに倒れると手をつくことができなくて危ないから」
と言いました。それを聞いていたKくんは、椅子にしっかり座って授業を受けるようになりました。また、まわりの子どもたちも自分ごととして考えることができたので、椅子に正しく座ろうと意識するようになり、授業の最後まで整った姿勢で取り組むことができました。

 ただ注意するのではなく理由を伝えることが、子どもたちにとって考えるきっかけになります。子どもたちと一緒に、何事にも「なぜ」を考えていきますね。

花まる学習会  尾瀬戸涼(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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