突然ですが、みなさまは人を笑わせることがお好きですか。「芸人になりませんか?」という勧誘ではありません。先日教室にて、「自分が表現したものを誰かに笑ってもらった経験がある人は、その後も自信を持って自己表現をしていけるのだな」と感じる出来事があったのです。
4年生から花まるに通い始めた、現在5年生のSくん。入会当初の彼は意見を述べることを苦手としていて、発表を促しても小さな声で答えるか、「うーん…」と首を傾げて黙ってしまうような、いわゆる消極的な男の子でした。しかし、場所や人にも慣れてきたのか、Sくんは徐々に自分の意見を躊躇わずに発信することができるようになってきています。そんな彼が、「自分がなぜ意見を言えるようになったのか」という理由を教えてくれたことがありました。
1月に、思考実験大会という特別授業を行った日のことです。“大会”と名のつく小学生コースの特別授業では、意見を発表する機会がたくさんあります。この日もSくんは自ら手を挙げて何度も脚光を浴びていました。授業終了後、私がSくんに「みんなの前で話すのが上手になったね」と声をかけると、「発表するとき、緊張しなくなった」と恥ずかしそうに答えました。「どんなことを発表しても、みんなが『いいね』って言ってくれるから」と。なんて温かい理由なのだろうと、涙が出そうになりました。そのあとSくんのお母さまから聞いた話によると、Sくんが「前の大会で、自分の発表をほかの子に笑ってもらえたことが嬉しかった」と言っていたのだそうです。
私にも、人に笑ってもらったことが自信となった経験があります。当時小学1年生だった私は、教室の前に立って過去の出来事を書いた絵日記を読み上げていました。すでに数名が私の前に発表を終えていたので、緊張はしていませんでした。いくつかの絵日記を読み、そろそろ終わろうというとき。私はふと「目の前で聞いている人たちを笑わせてやろう」といういたずらな衝動に駆られました。あろうことか、作成したものを読み上げるふりをして、書いてあることとはまったく違う話をし始めたのです。「私はピアノちゃんと呼ばれていました」と堂々と言い放ったとき、ドッと笑いが起こったことをハッキリと覚えています。小学1年生の笑いのツボは、いま思うとよくわかりませんね。
かなり前の記憶ですが、この経験は私のなかで色濃く残っています。あのとき笑いを取った「ピアノちゃん談」がなければ、子どもたちを笑わせることが大好きな、花まる教室長としてのいまの私はいなかったかもしれません。
自信をもって自己表現ができるようになるきっかけは、自分が発信したものが誰かの心を動かすものであれば、何でも良いと思います。ただ、“笑い”は、「自分が人を笑わせたのだ」という自信がはっきり得られるものだと私は思うのです。
1人で勉強しているだけでは誰かに笑ってもらうことはできません。しかし、花まる学習会には、Sくんの言葉を借りると「みんなが『いいね』と言ってくれる」環境があります。子どもたちが自己表現を楽しめるように、今後も挑戦の機会を設けてまいります。
花まる学習会 加藤美耶乃(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。