【花まるコラム】『夢に向かって』吉田いつむ

【花まるコラム】『夢に向かって』吉田いつむ

 「先生の夢って何ですか?」
 最近子どもたちからよく夢についての質問を受けます。そのたびに「私の『夢』って何だろう」と考えさせられています。みなさまにもお聞きいたします。「みなさまの夢は、何ですか?」

 2月、年長クラスで硬筆大会を開催しました。1年間、一生懸命磨き続けた『書く力』を披露します。ウェイターになりたい、アイドルになりたい、将棋のプロになりたい、子どもたちは1枚の紙に思いを詰め込みます。最初はお手本がなければ書くことが難しかった子も、息をするのを忘れるくらい集中して書き上げていました。そんな彼らの姿を見て、ふと幼いころを思い出しました。私にも夢があり、それは1つではなくいくつもありました。ケーキ屋さん、ピアノの先生、お花屋さん…。「毎年のように夢が変わっていたよ」と言われるほど、コロコロと変わっていたようです。

 「最近、夢変わってん」
そう言ったのは、4年生のAちゃん。以前、彼女は「医者になりたい」と作文に書いていました。
「どうして?」
「いまの時点で勉強ができていないと難しいんやって。友達に聞いてん」
「そうなんや…でも、諦めきれるの?」
「うーん…」
 彼女が医者を志したきっかけは、家族が命の危険にさらされ、医者の賢明な治療により救われたことでした。そのとき助けてくれたお医者さんに憧れと尊敬を抱いたそうです。高学年になれば、自我が芽生え他者性が育まれていきますから、まわりからの言葉も気になり始めます。「自分もあのお医者さんのようになれるだろうか…」そうAちゃんのように悩む時期が私にもあったので、彼女の気持ちがものすごくわかりました。

 以前、高校教師と話す機会がありました。その方からも「あなたには夢がありますか?」そう質問を受け、相談が始まりました。高校2年生の男の子が薬剤師を目指したいと言い出したのですが、彼の取得している単位数はギリギリライン。表面的に見れば誰しも「やめておいたほうが良い」となりますし、その学校の先生たちも同じ答えでした。そんなとき、こんな言葉が降ってきました。

「夢はでっかく。18歳までになるって決めたなら誕生日が来るまで追い続ければいい」

これは以前担当していた6年生Bくんのお母さまが言った言葉です。Bくんに夢を尋ねると
「サッカー選手になるのが夢。U-18、Jリーグ、ワールドカップ、いけるところまでいきたい」
でした。なれるのか?と疑う子もなかにはいましたが、 Bくん は
「なれるかなれないかは、やってみなわからん。俺の夢やねんから応援してや」
そう言いながら、友達の肩を笑顔で小突いていました。その後も彼はこう続けました。
「怪我してもう無理!やり切ったってなったら、政治家になるって決めてんねん」
彼の力強い言葉を聞き、話を聞いていた6年生と私は圧倒されました。Bくんのお母さんも笑顔で「夢はでっかくがいいじゃないですか」そう笑顔で話されていました。その後しばらくして
「先生、俺やっぱり受験するわ。政治家にもなりたいし」
そう言って6年生の夏頃に受験勉強に突如切り替え、志望校に合格し、嵐のように去っていきました。

 話は戻りますが、質問を受け考え込んでいると
「大人ってみんな夢が叶ってるんや思ってん。だから叶った後ってどうするんか気になってん」
と2年生のCちゃんは言いました。
「そうなんだね。大人でもまだ叶っていない人もいるんじゃないかな?」
「じゃあ私たちと一緒なんやなぁ…大人も勉強中なんや!」
とCちゃんは目をキラキラと輝かせ、ニコニコしながら言いました。これには忘れかけていた夢への思いがぐわぁと沸き起こりました。

 夢は、叶えるよりももつほうが大事なのだと子どもたちを見て感じています。成長とともに夢へのハードルが上がってしまうこともあるかもしれません。叶わないからと最初から諦めるのではなく、夢への過程を楽しんでほしいなと願っています。そのためにも私自身が大きな夢を追い、夢に向かって走り続けられる先生でありたいと思います。

 子どもたちの描く夢がどうか大きくそして輝き続けるものでありますように。

花まる学習会  吉田いつむ(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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