【おはなしのキッチン❼】『ライオンと魔女』平沼純 2022年12月

【おはなしのキッチン❼】『ライオンと魔女』平沼純 2022年12月

 イギリスの作家C・S・ルイス(1898~1963)による『ナルニア国ものがたり』第一巻、『ライオンと魔女』。ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシィという四人きょうだいが衣装タンスを通り抜け、さまざまな仲間とともに、危機に陥ったナルニア国を救うために活躍します。
 作者のルイスはオックスフォード大学の英文学者であり、キリスト教に関する研究書も多く著している宗教家。そのため、この『ライオンと魔女』には旧約聖書を思わせるシーンやキャラクターが多く描かれています。たとえば、ナルニアにおける絶対的な存在として登場するライオンの王アスラン―終盤で一度命を落とすものの、その後よみがえる―は、人間の罪を背負って十字架にかけられたキリストの受難と復活を明確に表していると言えます。
 もちろん、そうした背景知識がなくても、この物語は純粋に主人公の子どもたちがふとしたきっかけで「ここではないどこか」へと旅立ち、心躍る冒険をくり広げる傑作ファンタジーとして世代をこえて楽しめます。自分のなかの「善」と「悪」、真の勇気、世界の広さと美しさ―。ぜひこの物語をひも解いて、登場人物たちとともにさまざまな思いを抱きながら、想像の世界への冒険にくり出してみてください。

 そんな『ライオンと魔女』のなかで、ひときわ印象的に描かれている食べ物が、エドマンドがナルニア国を支配する白い魔女からもらう甘いお菓子、「プリン」です。

「そちがいちばんすきなものは、なんじゃ?」
「プリンでございます、女王さま」
 すると女王は、おなじびんから、雪のなかへまた一しずくたらしました。するとたちまち、緑色の絹のリボンでしばった、まるい箱が一つあらわれ、それをひらくと、おいしそうなプリンがどっさりでてきました。どのプリンもふわふわして、あまくて、これ以上おいしいものをエドマンドは食べたことがありませんでした。

(C・S・ルイス作/瀬田貞二訳『ライオンと魔女』岩波書店より)

 実はこのプリン、原文では「ターキッシュ・デライト(Turkish Delight)」とあり、19世紀にトルコからイギリスにもたらされた伝統的なお菓子です(トルコでは「ロクム」と呼ばれています)。訳者の瀬田貞二氏は、当時の日本ではまだ馴染みがなかったこのお菓子を、読者である子どもたちがイメージしやすい食べ物に置きかえたとのこと。
 イギリスではバラ味やレモン味、ピスタチオなどのナッツが入ったものがよく売られています。ぜひおうちでも色鮮やかなターキッシュ・デライトを作って、クリスマスに彩りを添えてみてはいかがでしょうか? もちろん、おいしいからと言ってエドマンドのように食べ過ぎることのないように……!

平沼 純

『ライオンと魔女』
C.S.ルイス 作
瀬田 貞二 訳
(岩波書店)

 

【レシピ】 ターキッシュ・デライト(ロクム)

ゼラチン20g
水大さじ1
グラニュー糖300g
水100㏄
レモン汁20㏄
塩ひとつまみ
コーンスターチ1/2カップ

①約15㎝角の容器を水にさっとくぐらせ、水気を軽く切っておく(濡れているほうがいいので拭かない)。ゼラチンを小さな容器に入れ、水を回しかけて5分ほどおき、なじませておく。
②鍋に水とグラニュー糖、塩を入れて中火にかける。沸々としてきたら弱火にして3分煮詰め、火をとめる。①のゼラチンを加えて丁寧に溶かす。
③レモン汁を加えて粗熱を取り、①の容器に注ぎ入れる。固まるまで1時間ほど、そのまま涼しいところに置いておく。
④完全に固まったら、コーンスターチを上から薄くまぶす。コーンスターチをまぶしたテーブルナイフを容器のふちに刺し込んで1周し、型から出す。全体にも薄くコーンスターチをまぶし、食べやすい大きさにテーブルナイフでカットする。
⑤コーンスターチを軽くはたいておとし、お皿に盛りつける。
※保存はコーンスターチをたっぷりまぶして、密閉容器に入れて冷蔵保存。冷蔵庫で2週間保存可能。

【レシピ・写真提供】
料理家 江口 恵子(natural food cooking)

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