【花まるコラム】『「解きたい」という欲求』鈴木弥生

【花まるコラム】『「解きたい」という欲求』鈴木弥生

 ある日の授業。年長のRちゃんは、パターンメーカーの問題で悩んでいました。年長のパターンメーカーは、模様のついた4枚の板を組み合わせてテキストに描かれた見本と同じ模様を作るというもの。Rちゃんの手元を見ると、赤い尖りの模様をつくるところで、ずっと白い尖りをつくってしまっていました。自分でも「何かが違う…」とは思いながら、具体的にどこが違うのかはわからない様子。しかし、授業は先に進みます。講師が「次は◯ページだって。パターンメーカーは後でやってみようね。と伝えると、Rちゃんは「いやだ!」と言って、ページをめくることを許しません。どうしても、この一問を解きたいのです。この強い気持ちは、成長のチャンスです。そこで、Rちゃんは講師と一緒に、パターンメーカーを続けることにしました。講師がヒントを出しながらRちゃんは手を動かしました。そして、Rちゃんはとうとう、テキストと同じ模様をつくることができました。Rちゃんは「できた!!」と大喜び。そしてすぐさま、いま授業で進めているページを開き、遅れを取り戻すように、ものすごいスピードで取り組み始めました。

 別の教室でも、パターンメーカーに苦戦している子がいました。年長のSちゃんです。Sちゃんも、パターンメーカーを解ききる前に授業が先に進んでしまいました。悔しそうな表情のSちゃんは、渋々パターンメーカーを箱にしまうものの、カバンの中にしまおうとはしません。ほかの問題を解きながらも、パターンメーカーを見てどこかソワソワしています。授業の進行に合わせて問題に取り組みますが、解き終わるとすぐにパターンメーカーを取り出して少しでも考えようとしました。「ああ、始まっちゃう!」と言いながら急いで手を動かすSちゃんは、一秒でもいいから考えたいという様子でした。同時に、数秒しかないという追い込まれた状況を、楽しんでいるようにも見えました。そして、少しずつヒントをもらいながら、最後の1ピースをはめた瞬間、Sちゃんの笑顔が輝きました。「できたよ!!花まるして!!」と言うSちゃんは、達成感に溢れた表情をしていました。

 2人に共通しているのは、「解きたい!」という強い気持ちです。誰にやらされるわけでもなく、自分の心の底から湧き出る欲求で動いているのです。そして、解けたときの大きな喜び。2人の輝く瞳を見れば、それがどれだけ大きいものかがわかりました。この「わからない!」「知りたい!」「わかった!」という心の動きは、勉強のあるべき姿だな、と思いました。そして同時に、子どものそのような気持ちを大切に、授業をしてきたいと思いました。

 花まる学習会の授業では、テンポを大切にしています。全員が飽きずに次々と新しいことを楽しめるように、授業はどんどん先に進みます。
 問題を解き終わっていなかったとしても、切り替えて話をきちんと聞くことももちろん大切です。しかし、子ども自身が「知りたい!」「解きたい!」と思った瞬間は、その子の成長のチャンス。場合によっては、その子の意思を尊重して、立ち止まることもあります。それができるように、講師がすぐそばでサポートをしています。解けてスッキリした子どもは、切り替えて次に進んだときにものすごい集中力を発揮します。
 どんどん授業が進むなかで一度問題を離れ、少し時間を置いてから考え直すことで解決の糸口が見えてくることもあります。逆に、RちゃんやSちゃんのように、とことん考えつくすことでわかるようになることもあります。子どもによってそれぞれ「できる」タイミングがあるのです。

 どちらの場合も、子ども自身が問題に前向きに取り組んでいることが重要です。「勉強って楽しいな」と思うために最も大切なのは、その勉強が主体的であることでしょう。勉強に限らず、人から言われて義務的にやることよりも、自分から進んでやることの方が楽しいし、おもしろいですよね。子どもたちが自分から学びたいと思い、それを実行できるような授業を目指してまいります。

花まる学習会 鈴木弥生(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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