【花まるコラム】『緑がかったグレー』伊藤真衣

【花まるコラム】『緑がかったグレー』伊藤真衣

 年中クラスの思考実験『手で描く』の時間のことです。タイトル通り、筆を使わず、自分の手のひらや指を使って描いていきます。
 多くの子は、まさか自分の手を使うとは思いもしていなかった様子で、「手でかいたことなぁい!」「早くやりた〜い!」と言いながら、これから初めての経験ができることに喜び、わくわくが止まらない様子でした。

 待ちに待った実験タイム。「絵の具を指先にちょんとつけて紙にスタンプしてみてもいいし、び〜っと伸ばして線をかいてもいいよ」「先生っ、ここ(手のひら)に全部つけてもいい?」説明を前のめりになりながら聞き、手のひらに絵の具をつけるしぐさをしながら質問するRちゃん。「もちろん!手のひら全部に絵の具をつけてもOK!」「やった〜!じゃあ青色〜!手に全部つけたい〜!」「いいよ~、手形のスタンプができそうだね」「先生、早くっ、早くっ!」
 真っ白だった画用紙は、あっという間にRちゃんの青い手形だらけになりました。そのあとも、「先生っ!次は黄色!」「次は全部(赤・青・黄・色)!」と絵の具を手のひらにつけては紙に手を押し当てるRちゃん。カラフルな手形が何重にも重なり混ざりあって、緑がかったグレーのような色が画用紙全面に広がっていました。そして、それとまったく同じ色をしている自分の手のひらに気がついたRちゃんは、「わぁ!先生見て、一緒だよ!」とすぐにだれかに見せたくなるほどに大喜びしていました。
 また、Rちゃんと同じく、カラフルに手形を押したり指で線をかいたりしていたUちゃん。「ねぇねぇ先生、見て〜!きれいでしょ!」とうれしそうに絵を見せるUちゃんに、「ほんとうだね!ここは青と赤が混ざって紫色にも見えるね!」と返答をした直後のことでした。いつの間にか両方の手のひらいっぱいに何色もの絵の具をつけていたUちゃんは、「へっへ〜!」と言いながら、両手を画用紙に押しつけ、回すようにしながら、紙全体に色を塗り広げていったのです。
 このとき、彼女の唐突な行動に驚き、思わず「ああっ!」と声が出てしまいましたが、何より、楽しくて仕方がない!というUちゃんの気持ちが、満面の笑みから伝わってきました。

 こういったことは、教室でしばしば見られます。子どもたちが一切のためらいもなく、次々に色を重ねたり紙を破ってみたりすることができるのは「いまこの瞬間を楽しみ尽くしている」からこそだと強く感じます。きっと作品づくりにおいても、「(色合いやバランスが)きれいな作品をつくる」のではなく、自分の目の前にできた作品の「ありのままの姿」を心に焼きつけながら、1秒1秒を過ごしているのでしょう。
 自分の心に忠実で、やってみたい!という気持ちからすぐに行動することができるのが、子どもたちのもつ大きな強み。なにかを作ったり、考えたり、はじめて挑戦したりする時間そのものを、心のままに楽しんでいます。

 画用紙一面、緑がかったグレー色になった作品。終わりの時間にはすっかりカラフルに染まった、元々は真っ白だった手拭き用の布。たとえどのような見た目であっても、それは、子どもたちが全力で感じて考えてその時間を楽しみ尽くしたという証なのでしょう。

花まる学習会 伊藤真衣(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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