【花まるコラム】『ママとおそろいなの』田中涼子

【花まるコラム】『ママとおそろいなの』田中涼子

 1㎝もないような小さな小さな爪が、ほんのりピンク色に染まっていました。
「かわいいね、ピンク色の爪」
「昨日ね、ママが塗ってくれたんだよ」
そういうと、年長のSちゃんは、とても嬉しそうに、ピンクの爪を見せてくれました。
「ねえ、先生は塗らないの?塗ったほうがかわいいよ」
「そうだね、先生も今度塗ってみようかな」
「ママはね、いつもかわいい色にしているんだよ」
「ママはおしゃれさんだね」
「そうなの。私の爪もママとおそろいなの」
Sちゃんはママとおそろいのネイルがとても誇らしいのでしょう。Sちゃんにとってママは、大好きな存在であり、憧れの存在なのです。   

 別の日、Sちゃんのお母さんと面談をしました。そのときの相談内容は、長女であるSちゃんを叱ってばかりでどうしたらいいかわからない。教室での様子も心配だ…ということでした。教室でのSちゃんは、何をそんなに心配なのかと不思議に思うほど、よく頑張っている子でした。教室でのありのままをお伝えすることで、少しは安心してくださったようですが、やはり叱ってばかりで褒められていない事実が、お母さんのなかで苦しかったのだと思います。

 わが子を一番に想い、将来困らないようにと、あれやこれやと教えたり、心配したり…精神をすり減らしている方も少なくはないのでしょう。「褒めないと!」そんなふうに考えてしまうときは、肩の力を抜いてほしいと私は思います。

 私の母は、それこそ幼少期の私に対して「褒める」ことのない人でした。その代わりといっては何ですが、「役立たず」「あなたさえいなければ…」といろいろな毒を吐かれたものです。だから私は、母の顔色をうかがうような子でした。「子どもらしくない」とよく言われたものです。母に褒められたことを思い出せない私でも、とてもよく覚えていることがあります。それは、大人が身に付けそうな緑色のいちご柄のワンピースを縫ってもらったことです。しかも、その柄は母のロングスカートとおそろいなのです。家族でよく行ったディズニーランドの写真には、おそろいのいちご柄の服を来た親子が、満面の笑みで写っています。もともと洋裁ができず、幼稚園の手提げ袋も近所のおばさんに手伝ってもらっていた母が、一人で縫ってくれたワンピース。当時の私は、そのワンピースを着ることが大好きでした。成長して着られなくなったときには、本当に悲しくて、また作ってほしいとせがみましたが、洋裁が苦手な母ですから、最初で最後の手作りワンピースとなりました。

 あの頃の私は、ワンピースそのものに母の愛を感じていたのだと思います。「いつも叱られてばかり…」「ママは弟のほうがかわいいんだ…」と心のどこかで卑屈になっていた私でも、「ママは私にワンピースを作ってくれた」「弟には作っていないワンピース。私だけのワンピース」そんなふうに思っていたのです。いまでもあの写真を見るたびに、私は母に愛されているんだなと実感します。

 Sちゃん親子が、私たち親子と同じ姿だとは思いませんが、大好きなママとのおそろいというだけで、Sちゃんもママに認められた、受け止めてもらっている、そんなふうに愛情を感じていることでしょう。言葉にして伝えることは、もちろん大切です。しかし、子どもたちは言葉以外からも親の愛をキャッチしているのです。表情や視線、スキンシップ、共感、おそろい…子どもたちにとってすべてが大切なものなのだと、改めて感じたエピソードでした。

花まる学習会 田中涼子(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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