【花まるコラム】『優しい嘘と、3度目の正直』金井彩

【花まるコラム】『優しい嘘と、3度目の正直』金井彩

 あれだけ「絶対行かない」と言っていたサマーキャンプ。無事、帰路につくところを待ち構えております。2年連続で起きた頭痛を克服すべく、小児科でもらったと嘘をついて、くだいたラムネを薬としてリーダーにお渡ししました(本人に聞こえないように事情も話して)。
 元気に帰ってきますように…。次の授業ではご報告できるよう、また先生には存分にほめていただけたら、と思います。まずは、無事に元気に出発したことを遅ればせながらのご報告でした!

 4年生のKくんがサマースクールに参加している間に、お母さんからいただいたメールです。2年連続でサマースクール中に頭痛がしてしまい、今年は行きたくない、と参加を渋っていたKくん。私から「どのコースにする?」「Kくんにはこのコースがおすすめなんだよね」と誘っても「今年は行かないから!」の一点張りでした。
 しかし、Kくんのお母さんも、私も、絶対に行ってほしいという思いは同じでした。自然の中で思いきり遊ぶことも、ミニ社会を経験することももちろんですが、「いやなことがあったからもうしない」というのはKくんにとって何もプラスになりません。
 そこで、お母さんと一緒にこっそり選んだコースは「夏休み大作戦」。Kくんには内緒で申し込みをして、時期が来たらお母さんと私で説得しましょう、とお話ししていました。1か月ほど前から説得を重ね、「じゃあ参加するよ」とKくんは参加を決めたのでした。

 サマースクール後の授業の日。いつも通り教室に入り、着席したKくんに「サマースクール、どうだった?」と声をかけると、「あ、楽しかったよ」の一言。その後も、サマースクールでの出来事を淡々と話すクールなKくんの姿に、拍子抜けしてしまうほどでした。申し込んだのはお母さんですが、最終的に「行く」と決断したのはKくん自身です。「行ってよかった?」という質問に「よかった!」と答えるKくん。日に焼けた横顔は、サマースクール前よりも少し大人びて見えました。
 授業後にお母さんとお話しすると、「Kにとってステップアップできたコースだったようで、おこづかいや使い捨てカメラを使えたこと、フェリーで行ったこと、何もかも新鮮で楽しかったようです。内緒でコースを選んで、参加できてよかったです!最終的に参加すると決断したのは本人なので、自分で考えて決めることができたところに成長を感じて…3度目の正直ですね!」と嬉しそうでした。

 ラムネのお守りの出番はなく、Kくんのサマースクールは終わりました。Kくんが楽しく過ごせるように、というお母さんの思いと行動があったからにほかなりません。そして、Kくん自身が一歩踏み出したからこそ、「頭が痛くなって辛かった」サマースクールは、「楽しかった思い出」に変わりました。
 一度いやな思いをしたから、うまくいかなかったから、もうやめる、ではなく、次にどうするかを考え、行動すること。それは子ども・大人関係なく大切なことだと思います。そして、お母さんの「目の前の相手のことを思う気持ちと行動」があったからこそ、それがKくんに届いたに違いありません。

 Kくんは、周りの子がおこづかいでジュースを買うなか、家族へのお土産を買ってきてくれたそうです。お土産を買った残りのお釣りではジュースを買えないことはわかっていたけれど、お土産を買う選択をしたKくん。家族へ伝えたい思いがあったのでしょう。

花まる学習会  金井彩(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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