ビリビリーッ!あ…まずい。
こんなやりとりがあったのは、年中クラスの授業中。ティッシュペーパーを使って、いろいろな実験をしてみよう、と「こより相撲」をしているときでした。
「ティッシュペーパーって、こんなに薄いから、すぐにビリビリって破れちゃいます。じゃあ、何もしていないティッシュと…(手の平でティッシュをこすり合わせ、その後指でねじりこよりを作っているところを見せながら)こうして手でねじったティッシュ」
説明をしながら、2つの細長くしたティッシュを交差させ、
「この2つを引っ張りあったら、どちらのティッシュが勝つかな?」
予想を聞くと、どちらにも「ハイ!」と手があがります。早速、講師2人で引っ張りあってみると…こより、つまりねじったほうが破れずに残りました。大人であれば、見ていなくても状況を聞いただけでそのような結果になることは想像できますが、子どもたちは目をくりくりさせて驚きます。
「ねじったぶん、固くなって強くなるんだね。そのぶん、力が溜まっているってことだね。みんなも作って、先生たちと勝負してみよう!」
ここで初めに私と対決したのは、Sくんでした。今回のこより相撲は、簡単に破れてしまうティッシュが題材でしたが、自分たちがねじったぶん強くなっているのだということを実感してほしい、また、「勝つ経験」を積んで自信もつけてほしいと思っていました。しかし、ここで冒頭のやりとりが起きてしまったのです。Sくんが時間をかけて作ったこよりに、なんと初っ端から私が勝ってしまいました。正直「しまった」と思いました。ですが、ここで私が引いてしまうのはSくんに失礼です。私も本気で挑んだ勝負ですので、思い切り喜びました。
「やったぁ!あかり先生の勝ち!よし、もっと強くして、またSに勝つぞー!」
と言いながらも、彼がショックを受けて“もうやりたくない!”と投げ出してしまうはないか、と次のティッシュを手に取りながら様子を窺っていました。すると、彼も早速新しいティッシュをもらい、すかさず両手で挟んでぐるぐる、ねじねじ。それを私に笑顔で見せてきて、負けじと勝負を挑んできました。彼が心から楽しんでいるなという様子が伝わってきました。
またある日、今度は年長クラスのTちゃん。
「先生、パターンメーカーの問題を出して!」
先日、テキストにパターンメーカーの問題が出てきた際に、レベルアップ問題と称して、教室にある小学生用のものをいくつか出題したことがありました。どうやらそれを覚えていたようで、再度私にリクエストしてきました。4題ほど提示しましたが、手をパパっと動かし、あっという間に作りあげました。
「できた!できた!先生、他にはないの?」
飛び跳ねながら私の元にやって来て聞く彼女に、もう何問か問題を出すと、タタタっと自分の机に戻り、早速形を作っていました。Tちゃんの表情からは「問題を解ける楽しさ・嬉しさ」を噛みしめているのが伝わってきました。
話は変わりますが、みなさんは「ドラゴン桜2」というテレビドラマをご存知でしょうか。そこで紹介される東大合格を勝ち取るための勉強や試験対策には、「なるほど!」「そういう目的があるのか!」と毎週ついつい見入り、頷いてしまいます。
頷いているのは私だけではありません。そこに登場している東大合格を目指す「東大専科」のクラスの子たちも授業での「あ、そっか!」という気づきや学びを得て、放送回を重ねるごとに目や顔つきが変わっていくのです。この姿は現役の高校生、そしてもちろん大人に対しても言えることかと思います。前述の年中のSくんも、年長のTちゃんも「もっとやりたい!」という意欲がありました。好き、楽しい!が原動力。本来子どもは、いえ、子どもだけでなく、人は「やりたい!」「もっと学びたい!」と、どんどん水を吸収していくスポンジのようなものなのだな、と感じました。
私も一人の人として、子どもたちと学びを楽しみながら吸収していこうと思います。
花まる学習会 中里明理(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。